第7話 初恋の人は既に亡くなっていた
まさかと思った。確かに初恋の人だった。でも可愛い留美と離れては他の男どもは、ほって置く訳がないと思い勝手に諦めていた。それに父が亡くなり故郷を偲ぶ余裕もなかった。いま留美の本当の心を聞いて新鮮なショックを受けた。
「せめて昔の恋人として、留美の為に線香でもあげてやれよ」
なんとその言葉が胸にグサッと刺さった。
「え! どう云うことだ!! まさか留美が死んだと言うのか?」
「ああ、知らなかったのか? 半年前にな。旦那も三年前に亡くなり今は娘が二人、雑貨屋の後を継いでいるよ。これがまた留美にそっくりの美人姉妹でなぁ」
「……そうか……そうだったのか」
私は二重のショックだった。初恋が実るのは難しいと云うけれど、せめて生きていて欲しかった。もちろん今更どうこう言える立場じゃないが、青春の日々を語り合いたかった。それだけで十分満足出来たものを、それが初恋の人はもうこの世にはいない。急に目頭が熱くなった。せっかくの同窓会を懐かしむよりも留美のことで頭がいっぱいになり、つい酔いつぶれてそのまま、この民宿に泊まった。
私は翌日、同級生から聞いて留美の住んでいた雑貨屋を訪ねることにした。彼女の嫁ぎ先は駅から歩いて十五分程度の海添えにあった。
この場所は確か留美と何度も来た場所だ。あの大きな岩も変わっていない。海岸がよく見渡せる公園があった。そのベンチに座っていろんな事を語り合った。それが今、走馬灯のように蘇ってくる。留美が死んだ……当時木製だったベンチはプラスチック製に変わっているが、同じ場所にある。私はそこ座った。いつも留美は私の左側に座っていた。そして左を見る。いる筈もない留美に思わず語りかけた。留美……。
留美の返事の変わり、小波だけがザァー聞こえてくるだけ。
そこに暫く佇んでから気持ちの整理がついた処で、私は夕方に雑貨屋を訪ねると、留美の面影が残った娘が店先に出て来た。細身の体でスラリとした美形だ。当時の留美がそこにいるような感じだ。
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