第5話 40年ぶりの同窓会

「え! 正春なのか? 久し振りなんてもんじゃない四十年ぶりか」

 正春とは家も近く幼馴染だった。子供の頃は良く遊んだし喧嘩もした。でも翌日はまた

同じように遊んだ仲だ。でも今では年賀を交換する程度だが。

 正春に東京を出る前に頼んでおいた事がある。私が生まれ育った場所まで車で連れて行って貰うことだった。駅から車で十五分程度だが昔は駅からバスが出ていたが廃止されたそうだ。その生まれ育った場所に着いた。そこは空き地になっており草が生えていた。

面影も何も残っていない。私は黙ってそこに十五分ほど佇んでいた。

父と母と妹の四人そこで暮らしていたのに無性に虚しさを覚える。

せめて昔の家でも残って居れば、あの頃の事を思い出せたものを。その近所を歩く人達も見覚えがない人ばかり、もう私はここでは浦島太郎でしかないのだろうか。虚しさに思わず苦笑いをして、正春の車に乗り込んだ。

 「せっかく故郷に帰って来たのに、実家がないものは寂しいものだな」

 「ああ、親父の都合で俺の人生も随分と変わったな。まあこれも人生さ」


 そして同窓会が翌日、寂れた駅の前にある同級生が経営する民宿で開かれた。男性は十七~八人、女性は十人足らずか。まだ十年ほど前は四十人程度集まったそうだ。みんな爺さんと婆さんだ。ほとんどが孫も居るだろうか。しかし此処にみんな集まれば、青春が蘇りあの頃に帰った気分になれる。半分以上は同じ高校に通った同級生だ。女性は特におめかししたのか、高い着物や洋服に包まれている。見るからに誰も裕福そうに見えるが、それも精一杯の見栄だろうか。  

 出来るものなら見栄は着るものだけで、飾らずに当時の中学生になりきり話したいものだ。 

私がその大広間に入って行くと、皆がジロジロと見ている。誰も気づいていないのか?

自分でも彼等の顔を見たが、まったく誰が誰だか面影がない。しかも肝心の初恋の人、留美は来ているのだろうか。ザっと見ただけでは分からない。出来れば一人くらい「まさと元気だったか」と声をかけて欲しい。

テーブルに並べられた料理は豪華だ。海辺の町だから魚は新鮮なものばかりだ。

四十年ぶりに、その料理を味わえる。それもひとつの楽しみだ。ここでも私は竜宮上から帰って来た浦島太郎のような気分だ。その辺は発起人の村上正春は心得ていて早速、自己紹介を始めた。

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