第3話 夫婦は空気のようなもの

机の引き出しから、また同窓会の招待状を取り出し少年の頃を思い出していた。

もしかしたら花岡留美に会えるかも知れない。しかしもうそれは四十年も昔のこと。

生きて行くのに精一杯で、留美を思い出す事さえ忘れていたのだ。今更それがどうしたという訳じゃないが、あの頃の淡い恋が新鮮に浮かび上がった。

 今では会社の方も、若い社員の指導役に回り少し寂しい思いもあるが、これも時代の流れか、老兵は消え去るのみかも知れない。長期休暇届もすんなり認められ嬉しくもあり、必要とされない寂しさが入り混じった。そして妻に同窓会に行くことを告げた。


 「母さん、悪いが久し振りに田舎に行ってくるよ。やっと同窓会に行く時間が取れたよ。確か君は娘の所に行くと行っていたよね」

 「ええ同窓会を楽しんで来てください。私は智子がどうしても来て欲しいと言うものだから、結婚してもまだ甘えるんだから困った子だわ」

 そう言いながらも嬉しそうだ。そんな笑顔を私に向けくれたらと僻みたくもなる。

 結婚して三十年以上ともなれば、よほどの事でもない限り妻は同行する事もなくなった。それが気にならない自分も妻をどうこう言える立場じゃないが。良く言われる言葉に、夫婦は空気のようなものと言うが、そうかも知れない。あって当たり前で気にしないが、空気が無くては生きて行けない不可欠なものだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る