第16話 王立魔導工房2

「ま、魔導師ヒルデバルド。本当にこのメンバーでいくの?」

「当然よ、魔導師シュリサリー」


 不安そうにヒルデバルドに尋ねている、シュリサリーと呼ばれた女性魔導師。

 元々は背が高いのだが、気弱そうに背を丸めている。その横には、ぼんやりとした表情を浮かべた小太りの女性魔導師のボーロもいた。


 二人とも、ヒルデバルドの取り巻きだった。

 そしてカレンへの陰湿な嫌がらせをしていた共犯でもある。


 そんな二人を率いるヒルデバルドは手に、重厚なしつらえの錫杖を持っていた。

 はかりの錫杖──王立魔導工房に代々伝わる魔導具の一つで、異界化の対策の指揮官の証しであり、かつては次期工房長と目される者が持つことが慣わしだった。


 一昔前は異界化は頻繁に発生しており、人類に大きな被害をもたらしていたのだ。その時代には対策は工房をあげての一大事業であった。その責任者の証したる権の錫杖は、魔導具としてもとても強い力を秘めていた。


 しかし現在、異界化の発生は減少傾向にあった。そしてその対策業務も、派閥としても劣勢な紋章派の、さらに異端扱いされていたカレンが担うぐらいに下に見られる業務となっていたのだ。


 そういった経緯もあり、カレン自身は権の錫杖に触れたことすらなかった。その何の補助も無い状態で、シンの手助けは借りながらとはいえ異界化を対策してことが、実はカレンの実力の向上──特異な分析、解析能力の獲得に寄与していたことを、シンのみが理解していた。


 ヒルデバルドはとある人物から権の錫杖の存在を教えられ、虎視眈々とそれを手にすることを狙っていたのだ。


 その人物から、この権の錫杖さえあれば、異界化など一瞬で消し去れると聞いていたヒルデバルドは、嬉々として異界化の兆候があるという現場へと向かっていた。


 カレンが通常じっくりと時間をかけて対処している異界化を、自分があっという間に解決させてみせるのだという自信を胸に。


 そうして取り巻きをつれて到着したのは王城だった。ここに、王都の地下へと降りる通路がある。


 王城の入り口を守る衛兵に向かって権の錫杖を掲げるヒルデバルド。

 古きしきたりをしっかりと受け継いでいた衛兵たちは、その錫杖を目にすると、恭しい仕草でヒルデバルドに向かって頭を下げる。


 その様子に、得意満面の笑みを浮かべるヒルデバルド。取り巻きの二人もそんなヒルデバルドを持ち上げるように褒め称えながら、三人は衛兵にエスコートされながら地下へと向かう通路のある、離れの塔へと進んでいくのだった。

 これから何が起きるかなど、全く知らずに。

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