第11話 ちょっと曲げてみた
「あれが、歪みの具象化ですか?」
「そうですよ」
「普通の犬に見えますが……」
「ここからですよー」
見た目があまりに普通すぎて不思議そうなシルビアになぜかカレンが少し楽しそうに答えている。
いたずらっ子のようだ。
実際にそれに対応しないといけない俺は、その会話に交ざる余裕もなく、一心に「ペン」を走らせる。
「シン、あれも中身は植物系。たぶん樹木より」
「ありがとっ」
さっきまでのいたずらっ子のような表情を引っ込めて教えてくれるカレンの言葉に、俺は描く魔導紋を微調整しつつ答える。
「あ、き、きますよっ、シン殿」
「大丈夫、完成した。記述紋、解放。実行」
キョロキョロとしていた犬がこちらへと狙いを定めたのか、駆け寄ってくる。
俺は先手必勝とばかりに一枚目の記述紋を実行する。
宙に浮かんだ記述紋から、まっすぐに一筋の炎が伸びる。
駆け寄ってきた犬へと急速に迫る炎。
しかし次の瞬間、犬が横とびに跳ね、かわされてしまう。
「避けられてしまいましたよっ!」
「大丈夫大丈夫。シンに抜かりはないから」
シルビアの心配そうな叫び。しかしカレンがシルビアの肩をポンポンと叩きながら太鼓判をおす。
──信頼されてるなー。まあ、確かに抜かりはない、ねっ!
この記述紋。
一つ目の魔導紋は「炎」。そしてもう一つは「鞭」だった。
俺はペンを記述紋へと突き立てると、横薙ぎに振るう。
記述紋から伸びた炎が、俺のペンの動きにあわせて、曲がる。
避けた犬の方へと迫る炎の鞭が、その足を捉える。炎が一気に犬の全身へと燃え広がっていく。
炎に焼かれ、犬の体が踊るようにその場で身を悶えさせている。
「すごい……。倒したんですか?」
「まだだな」「まだね」
はからずも俺とカレンの返事がはもる。
思わずカレンの方を向くとちょうどカレンもこっちを見ていた。
俺たちが互いに皮肉な笑みを浮かべていると、燃え上がった炎を突き抜けるようにして、犬のがわを脱ぎ捨てた歪みの具象化の本体が、現れた。
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