第10話 役割分担してみた

 カレンのノートから浮かび上がった魔導紋。それがまるで折り畳まれていた紙が広がるようにして、急速に拡大していく。


「きゃっ……え、なんとも、ない?」


 俺たちの体を通り抜けるようにしてさらに拡大していく魔導紋。シルビアは自分の体をすり抜けていく魔導紋に、驚いたように悲鳴をあげている。


「魔導紋自体には、害はありませんから大丈夫ですよ。魔導師じゃないと、何も感じないはずです」

「確かに──これから、一体何が起きるのですか」

「あの空間の歪み。あれを通ると、異界化の核になるとカレンは考えています」

「そんな……じゃあ、父もロナさんと同じように……」


 悲痛な表情を浮かべるシルビア。俺は残念ながらそれを慰めるすべを知らない。限りなくあり得る推察だからだ。


「通常、あの歪みは、すぐに消えているはずなのです。俺も実際に見たのはこれで二回目ですし」


 俺はそのまま話を続ける。


「あれはやはり特別なのですね」

「そうです。そして放置は危険です。なので、解消します」

「解消? え、えっ?」


 そこに、やりきった感を出したカレンが合流してくる。


「カレン、お疲れ。いつもながら見事な魔導紋だな」

「えへへ。ありがとう、シン。シルビアさん、この魔導紋、『式神下ろし』で歪みをこれから具象化して倒すんです。シンが」

「シン殿が、ですか……」

「ああ。カレンは運動苦手なので。まあ、役割分担ってやつですね」

「もう、苦手じゃないもん。ちょっと向いてないだけだから。あ、そろそろだよ、シン」

「はいはい」


 広がりきった魔導紋が、次の瞬間急速に収縮し始める。

 向かう先は、空間の歪み。

 それを包み込むようにして魔導紋が一点へと集まる。

 まるで爆縮するかのような勢いに、砂塵が舞い上がる。


 あまりの勢いに、隣でシルビアが咳き込んでいる。

 それを横目に、俺はノートとペンを構えると、何が現れるか見定めようと目を凝らす。


『式神下ろし』で現れるものはカレンですら事前に推察出来ないらしい。


 ──全く、完全な出たとこ勝負とか、俺の趣味じゃないんだがな……


 内心ぼやいていると、砂塵が晴れるまえに、何か黒い影が飛び出してきた。

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