第7話 無茶振りされてみた
「あー。それで今回の異界化案件はとりあえずは解決頂けた、とのことでよろしいのでしょうか。魔導師カレン=ザーランド」
室内の空気がピリッと、はりつめる。
俺たちはハイエルフの少女とともに、マリエッタ達の住まう館へと訪れていた。
そこでなされた、魔導師への正式な呼びかけでのマリエッタの問い。
ここで、カレンがその問いに是と答えた場合、それはその返答にカレンが魔導師として、全責任を負うことを意味していた。
しかし同時にここで是と答えない限り、俺たちはマリエッタから報酬を得ることが出来ないのだ。
当のカレンといえば、腕組みをして何か考え込むように、沈黙している。
「シンっ、シンっ」
「しっ。今は静かにね。で、どうした、ロナ」
「呼んだだけーっ」
ロナというのは、ハイエルフの少女の仮の名だ。どうもロナは自分自身が誰なのかも、どうして異界化の核となってしまったのかも覚えていないらしい。
俺の九十九盾をみたときに呟いていた聞いたことの無いテスラバルブという単語について訪ねても、ふっと頭に浮かんだフレーズだと言うだけだった。
そのせいか、ロナの言動は完全に幼い少女のものだった。
今も、マリエッタ達の話に飽きてしまったようで、盛んに俺に構って欲しそうにしていた。
そこで、考え込んでいたカレンが、ガタッと音をたてて立ち上がる。
「まだ、解決していませんっ! マリエッタさん」
「は、はい」
「この領の、地図を!」
「わかりました。シルビア」
広げられた地図に、カレンが「ペン」で何かを次々に記入していく。
何かの印だ。
俺は背中に登ってきたロアを肩車してあげながら、横目にそのカレンの書いていく印を眺める。
「……それは、さっきのゴブリンが現れた場所周辺から、この館に来るまでに見えた、異界化の兆候?」
「そうだよ。さすがシン」
「いやいや。カレンこそ、よくあんな短時間眺めてただけで覚えているよな。しかも、吐きそうだったのに」
「最後のは関係無いもん。で、よくみて、これ。パターンがあるの」
「わからん」
「じゃあ、これならどう?」
そういいながら、地図に記入した印を結ぶように線を引いていくカレン。
その線は、螺旋を描いていた。
「え、いやでも流石に、少し恣意的じゃ。サンプルが少なすぎて、それは……」
「でもきっとこれが正解。この螺旋の中心点。ここに本当の原因があると思うんだ。ロナちゃんのことも、わかると思うんだよね。とりあえず調べにいこうよ、シン」
「カレンさん、お願いがあります」
そこまで黙って俺たちの話を聞いていたマリエッタが、じっとカレンを見つめながら告げる。
「その原因を探るのに、シルビアも同行させていただけませんでしょうか」
「いや、足手まといだ」
俺は肯定の返事をしようとするカレンを、とっさに遮る。
「お願いいたします、シン殿。シルビアは今では私のお付きをしてくれていますが、元々は騎士の家系の出。そして、シン殿たちが向かわれる場所は、彼女の父が消えてしまった場所の近く、なのです」
俺の手をとり、マリエッタが事情を告げる。
「それは興味深いです。シルビアさん、詳しく教えて下さい!」
「おいこら、カレンっ」
「お話しいたします。ですから、どうかご同行させてください」
そういって深々と頭を下げるシルビア。
何か言いたげな顔でじっと俺を見つめるカレン。
肯定の返事をするまで離さん、とばかりに俺の手を握るマリエッタ。
俺の肩の上で一人楽しそうなロナ。
俺は思わずため息をつくのだった。
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