恐喝とタイトル回収
その後、すぐにトラックの運転手が降りてきた。見るからに好青年という感じで年齢は20代くらいだろうか。物凄い勢いで謝っていたが、特に怪我という怪我はなかったのでその場は解散しようという流れになった。一応、後から大きな怪我が発覚しては大変だということで轢かれかけた女子共々、相手の連絡先を教えてもらい、僕は一応念のために学校の保健室に行っておく言ってしまったのだが。
(場所知らねえ・・)
まあ入ったこともない校舎なのだ。当たり前である。と、いうことで轢かれかけた女子に案内を頼もうと、、、
「じゃあ、行こっか。」
「はい。・・・はい?」
先ほどの小さい安否確認以外に声を聴いていなかったので一瞬誰かわからなかったが、轢かれかけた女子が語り掛けてきたらしい。え、誘拐宣言?と思っていると、即座に彼女は言う。
「君、保健室の場所知らないでしょ。」
「まあ、そうですけど。」
何故知っている。
「私は九条 飛鳥。君は?」
「あ、桐ヶ丘 旭です。」
「ふーん」
自分から聞いておいて全く興味のない風である。というか、入学式の時って。お前は全員の顔を覚えてるのかよ。そんな野暮なツッコミを心に押しとどめつつ、いつの間にかスタスタと歩き始めている彼女に置いて行かれないように歩く。廊下の綺麗さは地元の中学と比べるべくもなく、階段にもたむろしている不良はいない。流石東京の進学校といった感じである。そんなピカピカにされている道中ではあったが、さして会話もなく、少しの気まずさを感じながら連れられている僕である。そんなこんなで無言のまま、そこそこ歩いた後、彼女は急にある教室の前で立ち止まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
何だこの沈黙。
「あの・・・・どうしたんですか。」
僕は気まずさに耐えかねて、声をかける。九条さんはたっぷり息を肺に入れたのち答えた。
「ここがこの学校の保健室なんだよ。」
「いや違うでしょ。」
明らかに教室だし。そんな大胆な嘘を顔色一つ変えずに言えるのは凄いけどその前の深呼吸で嘘だと分かる。分かるよな?え、いや、マジなの?と、変な疑いが頭をよぎった瞬間である。
バッと強引に腕を捕まえられ、教室の中に連れ込まれた。
「何をするッ」
と、反射で怒鳴ってしまったが、先ほどの事故の悲鳴と違ってボリュームはそこそこに抑えられた。いや、この場合は抑えないほうがよかったかもしれない。そんな僕の失敗を意に介さず、素早い手際で九条さんはこちらにピストルを向ける、しかし即座に撃たないことから、それは、こちらを威圧して動かさないためのものだと思われた。
「話があるの。」
ピストルを人に向けているとは思えない発言だ。しかし現に彼女は僕にピストルを向けている。経緯は分からないが、命の危機らしい。そんな理不尽な状況に対する不満すら恐怖でこわばった喉は音にしない。
「さっきの、あなたがやったの?」
『さっきの』?何のことだ?分からない。心臓が早鐘を打つ。怖い。ちょっと指を動かすだけで奪われてしまう自分の命の軽さに身震いする。
待て、落ち着け、落ち着くんだ僕。
『さっきの』。これはおそらく先程の事故のことを言っているのだろう。ほかに思い当たらない。しかし、もしそうだとすると余計に意味が分からなくなる。それに僕になにか非があったとしてもこうしてピストルを向けられる理由にはならないだろう。しかし、現に向けられているのだ。なら僕がすべきは「何も知らない」事をアピールすること。そして事情を聞き出すことだろう。ならば発言しなければ。
「──僕には『さっきの』なんて見当もつきません。」
無言で見つめられる。むろんピストルはこちらに向けたまま。緊張により引き延ばされた時間感覚の中、僕は固唾をのんで彼女を見る。正確には彼女の持つ銃の銃口を。
やがて彼女の口は開く。
「うん、分かった。じゃあ、次。」
発言の間の一呼吸。それすら永く感じた。
「桐ケ丘君は、どうして事故の時、青信号なのに渡らなかったの?」
今度は分からないということはない。しかし、言葉は選ばなくてはならない。
入学式を終えたてホヤホヤの学校。自分の教室より先に入った空き教室。さんざん悩んだ挙句に、僕はこう口を切る。
「僕は赤信号が見えないんですよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます