赤信号を渡れない

@mesa-jp

衝突

「僕は赤信号が見えないんです。」

入学式を終えたてホヤホヤの学校。自分の教室より先に入った空き教室。さんざん悩んだ挙句に、僕はこう口を切る。


 四月一日は金曜日であった。そして入学式の日である。僕宛にに都内有数の進学校、私立水瀬高等学校の合格通知が届いた日のうちに契約を済ませた自分の家(1LDK)。調子に乗ってしまったのは否めない。連日の夜更かしや前日は興奮でよく眠れなかったことが響いてしまったのかもしれない。その結果、ゆっくりのっそりと僕が布団から顔を出す頃には設定していたアラームは健気にも1時間ほど鳴り続けていた。「遅刻」の二文字が頭をかすめる。僕はガバッとベッドから飛び降り、手早く着替えを済ませ、パンを飲み干す。ドアに鍵をかけ、そして誰もいない部屋に向けて深く一礼。

「行ってきまーすッ!」

そして駆け出す。颯のごとく。しかし僕は気づいていなかった。県をまたいだ実家からでは東京の進学校には通えないと、借りたアパートの一室。しかし、それでも学校までは結構遠い。電車乗り継いでざっと1時間半程度はかかる。ここから学校の最寄り駅に到着する頃には、時刻はざっと午前10時くらい、対して入学式が始まるのは9時30分、つまりは遅刻確定である。僕がそれに気づいたのはダッシュで駆け込んだ電車の中であった。絶望と通勤ラッシュ、乗り換え。ついでに土地勘のなさ。それらは微かにあったはずの入学式途中参加という希望をもへし折り、目的の駅に着いたのは丁度15時を回ったころだった。入学祝で買ってもらったスマホで時間を確認した僕は絶望に打ちひしがれながら、しかしせめて校舎だけは目に焼き付けておこうと、のそのそと歩みだす。道中、おそらく下校中と思われるいくつもの学生のグループが僕とは逆の方向にゾロゾロと列をなして歩いてくる。在学生は入学式で休みだろうし、今下校している奴らは僕と同じ新1年生であろう。そう見ると、皆どこかぎこちないようにも思えてくる。その中には僕と同じ方向に歩いてる奴も見える。まあ、間違っても僕と同じく入学式に遅れ、校舎だけでも見に行ってやろうという愚か者ではあるまい。どうせ忘れ物とかだろ。と、悲観的な気分のあまり自虐的な思考も浮かんできたところで校舎前の横断歩道についた。位置的に駅を利用して通学する生徒にとっては不可避の道路である。気分的に高速で流れていく車の流れや忙しなく信号を待つ人を見るような事は、『体質』の件もあるので人を探し、歩き出しのタイミングを計ろうとする。そして適当な女子高生を見つけ足元を見やった。やがて動き出しを見計らい、僕も横断歩道の一本目の白線へと足をのばす。直後、僕は違和感を覚えた。今の子の足の運び、不自然じゃなかったか?と。そして彼女と目が合う。瞬間、肩にトラックがぶつかる。腰のあたりにナンバープレートが打ち付けられ、反射的に体をくの字に折ってしまう。自然と横っ飛びの格好になるが、反射でやってしまい踏ん張れるはずもなく、僕の体は勢いよく横に跳ぶ。隣の子は肉の弾丸と化した僕をサッと避け、必然と僕の体はコンクリートに激突した。

「痛ッッッッたァ!?」

言っておくが、そこまででは無い。無いのだが、ビックリして滅茶苦茶デカい声が出た。お陰で何かを言おうとした様子の隣の子は、何か言おうという雰囲気のまま2,3歩、歩道側に寄った後、恐ろしく控えめな小声で

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、大丈夫?」

と、此方の安否を確認したのだった。

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