第5話 りららさん、いいことがありました。

赤田は突然不吉なことを考えた。

時間が嫌にゆっくりと流れ出す。「今見たのはまさか」木目の半分に割れたきつねのお守りを手に握りしめ、(あい)を追いかける。


「こんな時に。お父さんが助けてやるからな」


必死に人だかりを越えようとするが、帰宅時間で吉祥寺は人で溢れている。


いない


赤田はビジネスホテルに泊まり、今日は頭を冷やすことにした。


「温泉にでもつかるか」


嫌なことは考えるな、大丈夫だ。

5階の大きなガラス張りのあつい湯につかる。


ふと先を見ると温泉の湯気のなかに、あいがいた。


「あい!」


気がつくと周りには白い服を着た救急隊員がいる。ゆっくりと体に力を入れる。「幻か」


そのなかに青いリボンをつけたあいがいた。


「お父さん、お父さん!」あいが涙を流しながら語りかける。「倒れた、って聞いたから」


「あい。お前になにもなかったのだったらよかった。この近くにいたんだね」


「違うよ、駆けつけたんだよ!」



次の日、テラスで赤田とあいは2年ぶりに共に朝食をとることにしていた。昨日の救急隊員も頭もどこも打っていない、「ただし、過労に気をつけてくださいね」と残しただけだった。


「お父さん、私、朝は3日連続でコーヒーなの」


「そうなのか」


「一昨日は確か······どこでだっけな。忘れちゃった!」


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