第5話 日常化するトークルーム
「じゃ、これで以上になりますんでぇ!あざしたぁ!」
見た目とは裏腹な甲高い声を響かせ、宅配業者の青年は玄関のドアをゆっくり閉めて、外の階段をドタドタと駆け下りていった。高校を卒業したくらいの歳だろうか。向こうとあまり歳が離れていないとは思うが、あの若さは今の自分には足りないものかもしれない。
足元に積まれた段ボールを抱え、千尋はリビングへと向かった。カッターナイフで切り込みを入れ、箱を開けていく。中には綺麗に梱包された漫画やDVDが隙間なく敷き詰められていた。
「我ながら…すごい量だな」
全て放送常連のリスナーから勧められて購入したものだ。ふと駅前近くの古本屋で立ち読みしてあまりに面白かったのでAmazone(アマゾーン)で大人買いをしてしまった。
購入のボタンをクリックした瞬間、なんというかすごくいい気分だったのを覚えている。今まで進んでお金を使ってこなかった分、思い切って趣味に使ってみるのは初めての経験だった。身体が達成感や充実感に溢れた。たまにはこういうのもいいかもしれない。
不意にテーブル上の携帯が振動した。子猫が驚いて光った画面にネコパンチを繰り出している。肉球を払いのけて、液晶を人差し指でタップするとすぐさまトークルームに切り替わった。
……………
アルマゲドン「ケットシーとかどうでしょう?伝説にあやかって…」
タイガー「お、ファイファンですか??」
スネーク「いや、FFっていえ。ケットシーは呼びにくいだろう」
孤高の戦士「ゴブリンはどういうのがいいんだ?」
ゴブリン「そうですね…やっぱり呼びやすい可愛い名前がいいですかね!」
タイガー「決まった!ならタイガーだ!おんなじネコ科だし!」
退屈な門番「可愛くねーじゃん」
野菜売る人「wwwww」
スネーク「却下」
タイガー「なぜっ!!!」
退屈な門番「理由: 性格の歪んだ猫になるから」
アルマゲドン「なるほど」
スネーク「いや、納得してやるなよアルマゲ」
アルマゲドン「アルでいいです。その呼び方ナマハゲみたいなので」
野菜売る人「wwwww」
タイガー「…ひどいッ!!全世界のタイガーという名前に謝れッ!!謝れよォ!!」
退屈な門番「はいはい、すまんすまん」
タイガー「軽いなオイ」
スネーク「うるせーよ笑」
ゴブリン「はははwwwwww」
野菜売る人「wwwww」
退屈な門番「wwwww」
タイガー「ひどいっ!みんなしてっ!あたしをいじめてたのしいのっ!?」
アルマゲドン「そんな、つもりは無いと思います…でも気分を害したのなら謝ったほうがいいと思います」
スネーク「そうか…気づかなかった。ごめんな」
タイガー「え?」
退屈な門番「そんなつもりありませんでした。本当にごめんなさいタイガーさん」
タイガー「いや、冗談ですやん、みなさん」
タイガー「あれw…?おかしいな。こんなはずじゃ…あり?」
孤高の戦士「キティちゃんって名前どう思う?」
タイガー「おいっーーーーー!!!!!」
……………
じゃれてもらってると勘違いしているのか、子猫が僕の指を甘噛みしている。
ニャンコの名前が決まるのはもう少し先になりそうだ。
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