第2話 ハローハロー

「放送終わったのに珍しいな」


アルマゲドンというペンネームのリスナーは毎回放送に来て必ずコメントを残してくれる常連だった。とは言っても自分の放送に来て、コメントしてくれる人間なんて指で数えるくらいしかいないので忘れることは無いのだが。


アルマゲドン「配信お疲れ様でした」

ゴブリン 「ありがとうございます!」

アルマゲドン「今日はもうやらないんですか??」

ゴブリン 「すいません。明日の仕事の用意しなきゃいけなくて汗」

アルマゲドン「そうなんですね。残念です」

ゴブリン 「ありがとうございます。働きたくないっす」

アルマゲドン「お疲れ様です。鳥取?という所にお住まいでしたよね。」

ゴブリン 「はい」


田舎の中でも特に過疎化が進んでいる鳥取県に自分は住んでいた。配信やチャットでは個人の情報は他人にあまり話していない。ネットを続けてあまり日はたっていないと思うが、リスナーや、配信で出来た友達とリアルで出会ったり、深い付き合いはしてこなかった。

興味がないわけでは決してなく、田舎でひっそりと仕事をこなしているサラリーマンの自分がみすぼらしく感じたからかもしれない。そこまで考えてキーボードの手が止まる。高校生の頃、全く友達ができなかった暗黒時代が胸に蘇ってきた。


アルマゲドン「お仕事頑張ってくださいね。いつも配信とても楽しみにしてます」


画面に映ったメッセージをじっと眺めて、勝手に指が動いた。


ゴブリン 「ありがとうございます。こちらこそ、いつもコメントみてます。きてくれてほんとうに嬉しいです」


会社でも休みの日でも、千尋はいつも1人だった。家に子猫はいるが、知り合いから強引に飼ってくれと頼まれ、断るに断れずに飼って今に至る。

自分がない。と周りに言われ続けた学生時代。今ではサラリーマンをやっている社会人だからこそ、自分だけの時間を大切にしているつもりだ。孤独なのに変わりはないが、ネットを介して自分に興味を抱いて、ましてや楽しんでくれる人がいることが純粋に千尋は感動した。


ゴブリン 「アルマゲドンさんは、何をされてる方なんですか?お仕事とか」


カチッとエンターキーを押して送信した3秒後、ハッと我に帰る。自分は何を踏み込んだことを聞いているんだろうか。

相手に引かれる前にあやまろう。そう思ってキーボードに触れるその時、


アルマゲドン「今はアルバイトですよ」


ピタッと指がとまって、落ち着いてメッセージを読んだ。大丈夫だ。引かれてはなさそうだ。


ゴブリン 「あ、そうなんですね!突っ込んだことを聞いてごめんなさい。気になって」

アルマゲドン「大丈夫ですよ!ぜんぜん!」

ゴブリン 「学生さん、とかですか?」

アルマゲドン「いえ、すこし前まで普通に働いてました。今は新天地でアルバイトですっ!」

ゴブリン 「なるほど~!引っ越しですかね?アルバイト慣れました??」

アルマゲドン「前の仕事よりは全然楽です笑」

ゴブリン 「へぇー!なんのお仕事されてたんです??…あ!差し支えなければでいいので!なんとなく!」

アルマゲドン「あ、魔王です!」

ゴブリン 「へぇー!すごいですね!」


流れるようにキーボードを打った。久し振りにひとりの人と(ネットだけど)スムーズに会話した気がす…あれ?なんて言ったこの人。それより、何て返信した俺?

もう一度会話を見返し、思わず間抜けな声が漏れた。その声に遠くのリビングで猫がニャアと反応した。


ゴブリン 「魔王?」

アルマゲドン「はい。…お恥ずかしながら」


恥ずかしいことなのか?魔王は。いや問題はそこではない。問題なのはこの人は今、何気ない会話から突然「ボケ」をかましてきた。それなのにかかわらず、自分は「へぇー!すごいですね!」と的外れな返しを、してしまったことが問題なのだ。ある意味面白い返しなのかもしれないが。


ゴブリン 「魔王…それは御見逸れしまして申し訳ないデス。。」

アルマゲドン「いえ…そんな気にしないでください!ほんと!」


これは…どっちなんだ。どっちの答えなんだ。そこはかとないメッセージを送ったつもりだが、余計わからなくなった。これだから臆病な性格は嫌だ。アルマゲドンはこの「くだり」を続けてほしいのか?乗っかって欲しいのか?


ゴブリン 「…なるほど。魔王さまはお住まいとかどちらなんですか?」

アルマゲドン「出身はゲヒルンなんですが、今は新宿に住んでます!」

ゴブリン 「なるほど!!」


ハローハロー。鳥取のサラリーマンから全世界の人々へ。現代の魔王は新宿に住んでるらしい。


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