第22話 モチヌシハ…?!

ひよりさんが帰って、しばらくすると姉が配達から帰ってきた。

「こまち、店番ありがとう!ちょっと休憩してきなよ。」

『お姉ちゃんおかえりなさい!ちょっとお客さんの忘れ物を届けてくるわ!』

申し訳ないと思いながら、お財布の中に本人と分かるものがないか探す。

あっ!あった。免許証を見つけた。

«櫻井 澪»。

この辺りに、櫻井という苗字の家はない。

思い当たる人はいる。

でも、この人が私が知っている櫻井さんで合っているのだろうか?

とりあえず、行ってみよう。

「行ってらっしゃい!気をつけてね!」

と送り出してくれる姉。


自分の車を走らせ着いたのは、私がよく知っている櫻井さんの家。

私が知っている櫻井という苗字は、ここ以外にない。

間違っているかもしれないと、急に不安になり玄関のドアの前でアタフタしている私。

「あら?家に何かご用ですか?」

とわんちゃんを連れたご婦人に話しかけられた。

そうよね。人の家の前で挙動不審になっていたら、誰だって不審に思うわよね。

『あっ。えっとー⋯。忘れ物を届けに来ました。』

とオドオドしながら答えると、そうなのね。と言って家の鍵を開けてくださった。

「おかえりー!ってあれ?!さっき、髪色を褒めてくれたお姉さん!?」

と驚いた表情をしている女性。

この人の髪色を褒めたのは覚えているし、よく来てくださるのも覚えている。

まさか、大輝さんのご家族とは思わなかった。

『こんにちは。先ほどは、お店に来ていただきありがとうございます。』

と一礼する。

「とんでもない!!お店の豆大福が、私たち大好きで!ところで、どうしたんですか?」

そうなんだ。

『あっ。あの、お店にお財布を忘れませんでしたか?』

と聞くと、思い出したように

「あっ、忘れた、家に帰って来てから、財布がないことに気づいたの!カバンの中を探しても見当たらないし、どこで忘れたかも分からなくて。」

と話す。

『あの、レジ前の棚?に置いてあったので届けに来ました。すみません。勝手にお財布の中の免許証を見てしまいました。』

と話し、女性にお財布を差し出す。

「えっ?!あったの?!よかったー!ありがとう!」

と受け取ってくださった。

『合ってて良かったです。』

「あなた、うちの弟と付き合ってる子?」

ここで、うん。と頷いていいのだろうか。

でも、いつかご家族に挨拶すると思うし。

『はい。』

と答えた。

「可愛い!和菓子屋の娘さんだったんだね!

あっ。私、大輝の姉です。そしてこっちが母。いつか、大輝が紹介してくれると思うけど、よろしくね!」

と言われた。

お姉様とお母様。

よくお店に来てくださるから覚えておこう。

きっと、今までもお互いが知らないうちに、顔を合わせていたと思う。

『では、私はこれで失礼します。』

と言って、櫻井家を後にした。

まさか、ドンピシャで当たるとは思わなかった。

今日のことは、大輝さんには内緒にしておう(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る