深紅と白銀 Ⅴ

北暦291年

ケプラー日時 1月3日 15:35

サクラメント・エレクトロニクス 専用軍事演習場



――"Drive Dollドライヴドール FourP-S008" 起動シークエンス開始――

 

 メインエンジン/コンタクト――

 

 AI S/起動――訓練モード 移行――

 

 搭乗者クリスティアナ・ジゼル・タチバナを認識


 メインモニター/オンライン――

 姿勢制御システム/オンライン――

 ウェポンシステム/レストリクションモード――

 

 ASSAULTアサルトギア コネクション正常


 登録母艦 U275B-AR-5――アルキオネ 通信未接続


 軍事演習場 通信室との接続を申請――通信接続



 ブラックブロッサムの起動シークエンスが完了するまでの間にコックピット内で、クリスはツインテールを1つのお団子ヘアーに束ね直し、ヘルメットを被ると側面のスイッチに手を当て、マイクをオンにしつつバイザーを下した。


「全システム起動完了」



『ブラックブロッサム9番機 起動を確認しました。リニアカタパルトへ固定します。出撃位置へカタパルトを移動開始。制限時間は攻撃が確認されてから15分間になります――――移動が完了しました。リニアカタパルト音声認識接続。発進を開始してください』



「了解!――ブラックブロッサム。クリスティアナ・ジゼル・タチバナ、出ます!」


 クリスの声を認識したリニアカタパルトが固定されたブラックブロッサムを射出する。


 クリスの視界が一気に開け、軍事演習場には大小様々な隕石が浮かび漂っていた。


「――無重力」


 射出された機体の速度を保ち移動を続けながら索敵を行うもヴェルルの機体を直ぐに視認することは出来なかった。


「近くにはいないようね」


 互いに黒い機体だから視認性が悪い分、先に見つけ不意を突いた方が有利。


 未だにレーダーにも熱源反応はない、ヴェルルもこちらと同様に出撃時の慣性のまま移動しているか、それともどこかに潜んでいるのか……



 無音のコックピットで1人、隈なく索敵を続けていると「悔いない様にやって来い」――というアストの言葉が脳裏に浮かぶ。


 チマチマやるのは……私らしくない


 クリスは機体を加速させる。腰部に接続されたASSAULTアサルトギアのテイルスラスターが唸りを上げ隕石群の中を高速で駆け抜ける。


 隕石群を躱しながらも徐々に速度を上げ続けた。恐らくヴェルル側には熱源としてこちらの位置を把握している事だろう。だがこの速度で隕石を躱すジグザクの動きであれば生半可な狙撃技術では当てることは難しいだろう。


 クリスは通り過ぎていく怪しげな隕石の陰を視線で確認していく。





 ヴェルルの機体はほぼ真正面の隕石の陰に身を潜め小型小銃を構えていた。その銃口の先はクリスの機体を捉え、動きに合わせて少しズレると一瞬だけ反射し光る。


 クリスはその光を見逃さなかった。

 

 小型小銃から弾丸が発射されるもテイルスラスターがクリスの無茶な操縦にも難なく追従し、速度を維持したまま体を左へ傾け射線から躱した。弾丸は姿勢制御の為に自動オートで最適な位置へ投げ出された左太腿を掠める。


 攻撃が確認され制限時間15分間のタイマーが作動した。


 クリスは更にテイルスラスターの出力を一気に上げ、左腰部のASSAULTアサルトギアから抜剣し、ヴェルルの機体へ向かって突撃する。


 その行動を見たヴェルルは射撃を中止し、後方へ回避行動をとりつつ実体剣を構え、衝突に備える。

 

 ほぼ最大速度のクリスの機体は後方へ距離を取ろうとするヴェルルのブラックブロッサムを逃がす事無く実体剣を振り抜く。

 

 互いの実体剣が鈍い音を立て衝突し火花を上げた。


 鍔迫り合いの最中「まさかASSAULTアサルトギアで来るとは思ってなかったわ!」とクリスは笑みがこぼれれた。


「もしBUSTERバスターギアだったら負けてたかも――ねっ!」


 テイルスラスターが最大出力まで達したでクリスの機体がヴェルルの機体を突き飛ばす。


 ヴェルルの機体はよろけながらも、姿勢を制御し小型小銃を構える。――が、クリスは撃つ余裕を与えず追撃し、ヴェルルの構えた小型小銃に向け実体剣を振るうのであった。



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