深紅と白銀 Ⅲ´

ケプラー日時 1月2日 13:45

アルテミス級 5番艦 アルキオネ 艦長公室


 しかし『アーシア・アリーチェのいないこの戦艦ふねには、もう興味なんて無いけど』なんて言ってた割に良い反応だったなぁ……

 それに今頃クリスは驚いているだろう。サクラメントエレクトロニクスが製造した機体は従来のDDの常識を超える性能だ。


 アストはそんなことを思いつつ一人優雅に艦長公室に持ち込んだテリヤキバーガーの包みを開き、かぶりつく。


 新年早々色々あったけど、お前の味は変わらなくて安心するよ。


 テリヤキバーガーを片手にデスクのモニターで受信済みの連絡を確認していく。


 秘書4人のお陰で見やすく整理された受信ボックスは必要最低限の連絡だけが残り、大まかなやり取りは行ってくれている。


 訓練ばかり一緒にやってきていた所為で彼女達が秘書ってことを忘れていた。


「ありがたいな」


 気になったのでまずは返信済みの方に少し目を通す。あまり関わりの無い関係者達からの大量の新年のコピペ挨拶にも律儀に彼女達が挨拶を返していた。


 今までの俺だったらスルーしていただろうに……


 さて、重要そうなのは……


 アストは受信一覧に戻り、見出しで気になる情報をスクロールして探していく。


 ほぼ経過報告か……ん?マッカートニーって確か……




【13艦隊マッカートニー部隊 護衛任務生存者一覧】

グリーゼ輸送護衛任務戦死者KIA行方不明者MIAを除く搬送完了済み隊員の状況報告


ディラン・マッカートニー 大佐

Drive Dollドライヴドールからコックピット周辺に攻撃を受け重症、意識不明。




 ディラン・マッカートニー! 


 

 アストは情報の詳細を開き、名を見た瞬間に思い出す。


 そうだ。訓練生時代、ライアンといい勝負してたあの人だ。うわぁ、懐かしいな……確かに当時のディラン・マッカートニーも盾を装備していた。何故エリオット・フェリックス・マッカートニーの装備や戦い方を見た時に思い出せなかったのだろう……


 しかし、あの人がDD同士の戦闘で操縦席付近をやられるとは……マッカートニーが全盛期ではないとはいえ、相手は思っている以上の手練れか、それとも特殊な何かを使用しているか……


 いずれにしても戦闘時に厄介な相手になることは変わりない。


 アストは調べながら固形ビタミンを口へ運びボリボリと噛み砕く。考え事や調べ物をする時等に口が寂しいと、この固形ビタミンが意外と重宝する。


 もっと詳しい戦闘データが入手できれば楽なものだが……確か戦闘データが……第13艦隊、ヘルメス級 通報艦 4番艦ダプニス……


「ダメか」


 護衛に参加していたマッカートニー部隊の一覧を見たが通報艦は戦闘開始後、最初に潰されていた。


 相手は宇宙連合軍艦隊への対処を熟知した行動をしている。それにしても何故、戦闘開始直前に陣形を崩したんだ?敵に気付いたからか?


「いや、それだと尚更崩さないよなぁ……」



「どうかなさいましたか?」

 

 独り言を言うアストにゼノビアが気遣う様に声を掛けた。気付かない間に訓練と昼食を終えた秘書4人組が艦長公室に戻ってきていた。


 アルキオネの艦長公室の横にもアサナトスの艦長公室同様、秘書室が隣接してあるがあちらのものより少々狭く、休憩室がない。


「宇宙海賊の戦術が気になったんだが、どうやら奴等は宇宙連合軍に対して何かしらのセオリーがある様だ」


「なるほど、では我々で過去のCypherサイファー関連の情報をまとめます。その他細かい業務もお任せ下さい。まとまり次第連絡いたしますので」


「あ、あぁ。すまない」


 あれ?やる事なくなる?どうしようか……

仕方ないフローレンスに先手として頼んであるアレがどうなりそうか直接見に行くか……


「これから外へ行ってくる」


「どちらへ行かれますか?」


「フローレンスに直接確認したいことがあってな。サクラメント・エレクトロニクスへ向かう」


「畏まりました。ジョセフィーヌ、ザヴァリィ送迎を頼みます」


「了解しました。アスト様参りましょう」

「了解」


 えぇ……俺だけで大丈夫なのに……なんか移動するだけで申し訳ないな……


「あー、すまない、頼む」


 数年間サラ副長と2人でやってきたアストは、有り難さと同時に、人手が増えて逆にやり辛く、息苦しさを感じるのだった。


 慣れるまで時間が掛かりそうだ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る