深紅と白銀 Ⅲ
北暦291年
ケプラー日時 1月2日 12:25
アルテミス級 5番艦 アルキオネ
真新しい漆黒の機体が左右に3機ずつ格納庫内に並び立ち、固定されている。
各機体の足元では整備士達が笑いながら雑談し、昼食へ向かおうと同じ方向へゾロゾロと移動を始めていた。
そんな格納庫内を整備士達の流れに逆らう様に赤髪の少女と眼鏡を掛けた少年が話しながら歩く。
「クリスはお昼いいの?」
「これを飲むから平気」と手に持った栄養ゼリー飲料をフリフリと見せた。
「それだけだとお腹空くんじゃ――」
「へぇーこれがブラックブロッサムね?中々格好良いじゃない!」
彼の心配を他所にクリスは視界に入った機体の見栄えに期待を寄せる。
「クリスのはあそこの9番機だね。それにしてもこの機体の造形はある意味で現在のDDの到達点と言えるかもしれないよ」
マイケル・ワッツは眼鏡の位置を直すと機体を見上げる。
「ホント、ビックリした……僕が知らないこんな機体や企業があるだなんて」
「いや、あんたが整備士になってる方が驚きなんだけど……狙撃の腕だけはピカイチだったのに、何でパイロット辞めたの?」
「模擬戦で思い知らされたのさ、それだけじゃダメだって……それに僕は機体を弄る方が好きだし、何よりアルテミス級のクルーになれた事が嬉しいよ!」
本当に嬉しいのだろうマイケルは眼鏡の奥の瞳を輝かせクリス用のブラックブロッサムの前に着く間、この機体の凄さを熱く語りだす。
「――で、この機体なんだけど!見て分かる通りあらゆる企業の
クリスは引き気味に「へぇそうなんだー……それじゃ、さっさと乗降装置を動かしてくれない?」と言い、受け流した。
熱く語っていたマイケルは我に返り「あっ、ご、ごめん」と言いながらスイッチを押すと乗降装置に乗ったクリスをコックピットの前まで上昇させる。
コックピットの前で停止するとマイケルが遠隔でブラックブロッサムの2重コックピットハッチを開け、乗降装置とハッチを接続し固定させた。
「乗ってもいいよー!!」
「言われなくても」とクリスは勢いよく座席に座る。
「シートが新品で柔らかい!汗臭くもないし、それに結構広いわね」
ハッチが完全に閉まるとクリスはブラックブロッサムを起動させる。
周囲を囲むメインモニターが全て点灯し、正面のモニターに起動シークエンスの文字が表示されていく。
――"
メインエンジン/コンタクト――
AI S/起動――アイドリングモード 移行――
搭乗者クリスティアナ・ジゼル・タチバナを認識
メインモニター/オンライン――
姿勢制御システム/オンライン――
ウェポンシステム/オンライン――
登録母艦 U275B-AR-5――アルキオネ 通信接続
「きゃっ!?座席が勝手に!?」自動的にクリスの体格に合わせた形状に座席がスライドしていく。同時にモニターには機体の周囲が映し出された。
『その機体にはクリスの生体データや戦闘データが組み込んであって、最も適しているであろう状態に自動調整されるんだ!』
クリスはマイケルの音声通信での説明も聞かずサブモニターで機体調整の項目を確認する。
「手元のサブモニターの位置も凄い操作し易い――嘘でしょ……?私がやろうとしていた設定に調整されてる……」
『だから、後は実際に動かしてみて違和感のない様に微調整するだけなんだ!』
クリスは機体スペックを表示し、その数値の高さに再び驚く、機体説明を続けているマイケルの音声は最早聞こえていない。
安上がりの機体?DD部隊に興味無い艦長?私は何を的外れな事ばかり言っていたの?
バカね。いえ、大バカだったわ……
「ふふっ――マイケル!この機体凄いわよ!――この機体なら……誰にも負ける気がしないわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます