深紅と白銀 Ⅱ´

ケプラー日時 1月2日 11:45

アルテミス級 5番艦 アルキオネ 艦長公室


「座ってくれ」


 ローテーブルを挟んでソファーが対面して置いてある。アストは1人用のソファーへ座り、2人を敢えて同じ長椅子の方へ座らせた。


 何も気にしていないヴェルルは「失礼します」と直ぐに座り、クリスはその行動に負けじと隣に「失礼します!」と追う様に座った。


 アストは2人の顔を見た後に、小さく溜息をつく。


 自分から面談を始めておいて何だが……正直、こういう面談が苦手だ。



 この空気の中どう切り出そうかと、少し間が空く。





「――俺は偉いおっさんの様な長話やお説教をするつもりは無い。単刀直入に聞く。クリスティアナ・ジゼル・タチバナ少尉。何をそんなに感情的になっている?理由を1から話せ」


「私は別に――」


「因みに、こういう時に階級的な立場を使いたくはない主義だが、これは命令だ。もう一度言うぞ?理由を1から話せ」


 普段の緩い雰囲気だったアストから初めて圧を感じたクリスは高圧的な態度を改め、言葉を選びながら話を始める。


「…………あの日の模擬戦。本来、私が選ばれるものだと思っていました。だけど、ヴェルルとマッカートニーがコネか何か知らないけど、その枠を奪った」


 1からとは言ったけど、あの模擬戦まで遡るのか……まぁ確かに、クリスの成績なら間違いなくトップクラスの腕前、あの日あの場にいても不思議ではない。


「コネで参加したとは言え、マッカートニーが手も足も出ずに負けたという話を聞いて、彼と戦ったアーシア・アリーチェ大尉に興味が湧いて……だから実際に話して、そして戦ってみたかった。」


「それで?同じ様に模擬戦へコネで参加したヴェルルに、何故か専用機が与えられていて理不尽だと思った。そんな所か?」


「…………」


「なるほどな。ヴェルル、模擬戦の件はどうだ?」


「あの模擬戦は最初から私が戦う事を前提に用意されていた。私以外の訓練生は数合わせでしかない。父親の推薦で参加したエリオット・フェリックス・マッカートニーは貴女の言うコネで参加した事になる」


「何を……言っているの?」


「コネで模擬戦へ参加したのはエリオット――」


「そこじゃなくて……!元々ヴェルルの為に用意された模擬戦ってどういうこと?」


「あの模擬戦の主催はサクラメント・エレクトロニクス。そして私は、訓練生である前にサクラメント・エレクトロニクスのテストパイロットの1人だから」


 驚きの余り、言葉の意味は理解できるが頭での処理が追い付かないクリスは言葉を失う。


「クリス、俺も把握していない話もあったが、ヴェルルが言っていることは事実だ。彼女に専用機があるのはその機体の専属パイロットだからだ」


 それでも今までの感情が足を引っ張っているのか、納得が出来ないでいるクリスは唇を噛み、膝の上で手を思い切り握っている。


 その様子を見たアストは腕を組み、少し考える。


 プライドが高いなぁ。さて、どうしたもんかな。別に俺は心理カウンセラーじゃないしこれ以上はどうしようもない。


 クリスの鬱憤を晴らしつつヴェルルの技量を測るには…………ここはシンプルに


「模擬戦、やるか」


 その一言で俯いていたクリスの視線が勢いよくアストヘ向く。その瞳には光が宿り、生き生きとしている。


 お、食い付いた


「ヴェルル、問題ないか?」


「問題ありません」


「クリス、ヴェルルはやってもいいそうだが。どうする?」



「……勿論、やるわ!」


「それじゃ、模擬戦は明日行う。飯食って機体の調整をしてくれ。ヴェルルも明日までに予備のブラックブロッサムの搬入、調整を頼む」


「了解しました」ヴェルルは敬礼し艦長公室を後にする


 

 先程まで突っ掛かってきた彼女は何処へいったのか「艦長、申し訳ありませんでした。模擬戦、ありがとうございます」と言い、ヴェルルと同様にしっかり敬礼をして艦長公室を出て行った。


 なんだ、冷静になればちゃんとそういう対応ができるのか……




 クリスはヴェルルを追いかけ謝罪する。


「コネとか言って悪かったわ」


「平気、気にしてない」


「そっか……だけど、模擬戦は本気で勝ちに行くから!」


「――そう」


「だからヴェルルも真面目に戦って」


「……わかった」


 並んだ2人の紅白の髪は同じように揺れ、共に格納庫へ向かった。




 1人艦長公室に残ったアストは「今時の訓練生は承認欲求が強いのかな……」と呟きながらインスタントコーヒーを淹れ、予定変更の連絡をサラ副長と秘書の4人へ通達し、昼食前に一息付くのだった。

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