第2章

本格始動と新年 Ⅰ

――グリーゼ南安全宙域防衛戦から15日後――


北暦290年 

ケプラー日時 12月25日 10:37

第2超巨大コロニー グリーゼ 完全独立部隊アサナトス軍事施設 アルキオネ艦長公室



 あの日のワームホールは約1週間前に完全に閉じ、警戒態勢が解除された。

 

 グリーゼに住む人々の街並みは新たな年を迎えようと連日賑わい、軍人にはあまり関係なくとも年末なんだと感じさせる。


 そして今回の戦闘で殆どのアルキオネのクルーはまるで大掃除されるかのように解体され来年からそれぞれの道を歩み始めることになった。

 

 特にDD部隊のパイロットは今回の戦闘結果で腕を見込まれ、それぞれが新型の専用機体を受領。昇進及び別艦隊への異動が決まった。

 

 リリア・ソコロフ。少佐へ昇進。第43艦隊へ配属

 アーシア・アリーチェ。大尉へ昇進。第2艦隊へ配属

 ソフィア・フォン・シェーンベルグ。中尉へ昇進。第51艦隊へ配属

 

 リリアとソフィアは被害の多かった第43、第51艦隊への人員補填として配属、アーシアに関しては第2艦隊へ引き抜かれた。


 勿論、俺の指示ではない。司令部からの命令だ。

 こういうことは別に今回が初めてという訳ではないが、やはり数年間同じ時を過ごした仲間が離れて行くのは寂しい。


 最初は新機体の受領に大喜びだった彼女達だが移動の話をした時は表情が曇り、あのいつも明るいアーシアはポロポロ涙を流した。リリアが慰め、更には年下のソフィアにまで慰められたのは流石に恥ずかしかったようで、すぐに元気に振舞ってはいたが少々先が心配だ。


 俺はというと、サラ副長と共に昨日まで、あの戦いの後始末やら戦闘報告やらで色々な所に出ずっぱりだったが、やっとのこと全部片付いたので艦長公室の高級な椅子へ溶ける様にどっぷり座り込み、天井を眺めていた。


「コーヒーでも飲むか」


 インスタントコーヒーを適当に作りながら、電子カレンダーの日付を見る。


 12月25日……

 

 昔、地球では紅い服を着た老人がこの日になるとプレゼントを配り回ったという逸話があるが、本当なのだろうか?

 

 随分と年寄りに厳しい時代があったんだなぁと、熱々のコーヒーを啜る。


「――あ゙っづい」とアストが顔を歪めたと同時に、艦長室のチャイムが鳴った。


「サラ・ブラウン入ります。……アスト艦長?大丈夫ですか?」


「ゔ、ゔん――どうぞ」


「失礼します。お疲れのところ申し訳ございませんが、ご報告です」


 ほぼ俺と同じ業務を行なっている彼女がこんなに元気なのは何故だろうか……


「まずアルキオネの修理状況ですが、アステローペの武装等の搭載を含めますと1月の末には全て完了するようです。続いて例の訓練生たちの件ですが、軍法会議によって彼らの独断専行と命令違反に対し懲役刑の判決が下りました――」


 まぁ……当然だ。彼らの行動が無ければ、かなり戦局も変わっていたことだろう。危うくクルー全員が死に懸けた。


 あの黒いDDの援護が無ければ……今頃


「最後に本日の16時より司令官室へ招集命令があります」


「招集命令?いつもは俺に直接言ってくるのに?」


 怪しさしかない


「本日はそれまでゆっくりお休みになられた方がよろしいかと」


「……?――あ、あぁ。ありがとう。そうさせてもらうよ」 


「では、失礼いたします」


 まるで秘書だな……


 そういえば、いまだに俺に秘書が就かないのは何故だろうか……


 隣接されている せっかくの秘書室がもぬけからだ。


 常駐してくれる秘書が何人かいれば彼女も楽になるだろうに……第3艦隊時代の、なるべく何もしない精神が根付いてしまっている。


 行った時、序でに一花指令に色々頼もう。


 アストは気の抜けた思考で、丁度いい温度になったコーヒーを飲み、招集時間が近づくまで再び寛いだ。

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