再会と新世代 Ⅵ

北暦290年 

ケプラー日時 12月10日 16:42

第2超巨大コロニー グリーゼ 宇宙軍工廠 第8ドック


アルテミス級 DD搭載強襲揚陸艦 5番艦 アルキオネ ブリッジ


 艦長席を除き、ブリッジクルーが続々と各席に着いていく。

 

「グリーゼ工廠の技術士の人員数は?」


「18名です」


「彼らには新装備の最終確認をしてもらう。整備班はサポートに回れ」


 艦長不在のため、副長のサラ・ブラウンがアルキオネ発進までの最終確認の指揮を取る。


春夏秋冬ひととせ司令からの許可が下りた。発進シークエンスをスタートさせます。緊急事態のため、1部手順省略。主動力、CIC、接続確認」


 サラ副長の指示に対し、ブリッジから報告の声が挙がる。


「出力上昇、異常なし。メイン安定まで220秒。サブ、安定確認」


「CICオンライン。武器システム、防衛システム、レーダーシステム、オンライン確認」


「全システム異常ありません」


「メイン安定確認、発進準備完了」




 後は彼と、彼女達を待つだけね……「総員、発進まで待機」




***




北暦290年 

ケプラー日時 12月10日 16:42

第2超巨大コロニー グリーゼ 南ゲート近郊




 アルキオネが準備を進めている最中、グリーゼ 南ゲートでは既に第2艦隊を筆頭に第43艦隊、第51艦隊がワームホールに向け前進していた。


 各艦隊、別々の指揮が為されているのにも関わらず美しい陣形が形成されている。 ワームホールに対し1部艦隊が側面を向け、各々が主砲、副砲を展開し始め、静止した。



 なぜ奴らは、あの宇宙の穴から這い出てくるのだろうか。


 有象無象の小型、中型ENIMエニムが一斉に放たれるようにグリーゼ宙域へと進行する。


 それに対しほぼ同時に陣形を取っていた複数艦隊は主砲の斉射を始める。


 その並び放たれた主砲の威力は、たった1斉射で数十体の小型ENIMエニムを薙ぎ払い、数体の中型ENIMエニムすらも貫き、爆破、爆散させていく。


 しかし、奴らは一切の恐れもなく、こちらへ進行してくる。




「畜生共が、安全宙域に出てくるなんて……!」


『全力で守り切りましょう』


「おうともさ!」


『ハッチ開放します、発進どうぞ』


「了解!――"マイル・ゼロ"、ライアン・キャンベル出るぞ!」




 奴らの進行に対抗するように各戦艦からDDが順次発艦されていく。


 


 数多のDDと小型ENIMエニムが互いを殺し合う。


 華麗に戦えている者、不意を突かれ、叫ぶ間もなく死んでいく者、その異形な見た目に怯え、逃げ惑う者。

 Drive Dollドライヴドールという同じような外装を得た人類の本質は変わらない、多様性で満ちている。


 だが、奴らは違う……人類と同様に個体毎に全く違う見た目をしていながら、仲間が殺されようが逃げもせず、怯えることもなく画一性で満ち、まるで怒りをぶつけるかのように人類への攻撃を続ける。



「くそっ!なんて数だ!!」


『ライアン隊長!――う、うわぁぁぁ……あぁぁ!!』


「マーク!?くそがぁぁぁぁ!」



 DD部隊が撃破されていくにつれて、第2艦隊以外の艦隊から美しい陣形を乱し始める。


 追い打ちをかけるように、ワームホールの奥から大型のENIMエニムが姿を現し始めていた。クラゲの様な見た目だが、その傘は金属のような質感に見え、傘の親骨や露先は光の線が見える。



「このままだと……数に押される!」



 DD部隊の戦意は徐々に下がっていく。



 グリーゼ 北ゲートからエルキュール提督が率いる超天帝級戦艦 《ゼウス級》 2番艦 スィネルギオが到着し、加勢する。


「劣勢か……全艦隊へ通達、特殊光子武装砲を使用。広範囲を殲滅する。収束率は50%でキープ。照準、大型ENIMエニム


「Copy――」


『戦闘中の各艦隊へ、特殊光子武装砲を使用します。DD部隊の一時後退、退避を願います。繰り返す――』


 スィネルギオの前面にある巨大なハッチが解放され内部の砲身がゆっくりと露出される。その形状は巨大なENIMエニムの口部を再現したかのような造り。

 


「各艦よりDDの撤退完了を確認」


「ドレッドノート、収束率50%。出力最大。照準、大型ENIMエニム


「特殊光子武装砲、発射」


「ドレッドノート――てぇ!!!」



 超天帝級戦艦 《ゼウス級》 2番艦 スィネルギオから、特大の光子の波が放たれる。かつて、弩級戦艦という単語で象徴された名の武装は一線の光で正面の物体全てを呑み込んでいく。

 


 特殊光子に包まれたENIMエニムは中、小関係なく蒸発した。

 そして最も奥にいた大型にも到達し、1度、弾かれた様に拡散するも出力で勝り、徐々にそのクラゲの様な傘を融解していった。


 それでもなおENIMエニムの進行は止まらない――




***




北暦290年 

ケプラー日時 12月10日 17:37

第2超巨大コロニー グリーゼ 宇宙軍工廠 第8ドック


アルテミス級 DD搭載強襲揚陸艦 5番艦 アルキオネ ブリッジ



「特に問題はないか!?」



 アストは無重力の中、急ぎ艦長席に座る。

 

 緊急事態でブリッジ内は緊張に包まれていたが、アストの声に安堵した。


 サラ副長は、急ぎ戻ったアストを労うように声をかける。


「アスト艦長、お待ちしていました」


「あぁ、待たせたな。では、サラ副長CICを頼む」


「了解」


 観測班からアストへ報告が入る。

『――艦長!特殊光子武装砲の発射を観測しました』


「――ッ!?ドレットノート!?ということは劣勢か……抜錨する!固定装置解除の後、最大戦速!」


『Copy――』


 戦艦を固定していた数十本のアームが外れていき、巨大なゲートが開いていく。


『セーフティ解除します。8番ゲートオープン確認』


「よし、アルテミス級 5番艦 アルキオネ――発進する!」



 第2超巨大コロニー グリーゼ 南8番ゲートより不沈艦アルキオネが発進し、劣勢の戦場へと駆けた。

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