再会と新世代 Ⅴ´

「見応えはあったけど……」

 

 まさか、あんな方法で後ろを取るとは……


 だけどアーシア……その動きは模擬戦だから許されるのであって(許されない)

 実戦を想定した動きじゃないと誰の手本にもならないよ……


「後でソフィアと一緒にお説教かな……」


 


 最初の知的な眼鏡君は遠距離、2番手のマッカートニーは接近戦、となると銀髪少女はオールラウンダーだろうか。


 リリアがB装備を選んだ場合、訓練生がどれだけ詰め寄れるかだが……正直、あのソフィアがゴリ押ししても近付けるかどうかだし……



『ヴィジランスレッド発令。ヴィジランスレッド。パイロット各員、搭乗機にて待機せよ。繰り返す――』



 リリアは『全力で叩き潰します』とか怖いこと言ってたけど流石に――ん?


 アストは自分の端末が光っていることに気が付く。端末には着信が既に3件入っていた。


 サラ副長?


「はい、こちら天音――」『アスト艦長!!』


 いつも落ち着いているサラ副長が珍しく声を荒げている。


『ヴィジランスレッドです!』


「あぁ、そうだな。最後の模擬戦はヴィジランス――」


『そうではありません!緊急招集を願います!グリーゼ南ゲート近郊にてワームホール発生の前兆が確認されました!』


 なっ――!? 


 観測班のミスではないと思うが、この辺りは安全宙域として認定されてからまだ数十年だぞ!?


「グリーゼの防衛部隊は!?」


『――既に第2艦隊が発進しています!』


 そうか第2艦隊が――だが規模によっては俺たちの出撃も――


「了解した」

 アストは驚きはしたが既に第2艦隊が対応していたことで、気持ちを切り替えることができた。急ぎ足で個室を出ながら端末で複数の回線を繋ぎ、指示に移る。


「独立部隊アサナトス、アルキオネ各員へ。ヴィジランスレッド発令。アーシア、ソフィアは俺とアルキオネへ戻り次第、出撃できるよう搭乗機にて待機。春夏秋冬ひととせ司令からの指示を仰ぐ」


『『了解!!!』』

 

 続いて個人回線でリリアへ指示を出す。


「リリア、万が一に備えて訓練機にて待機。最悪、訓練生たちの出撃も視野に入れなければならない。その際は一時的に現場での指揮を任せる」


『了解』


 最後にサラ副長へ個人回線を繋ぎ直す。


「アルキオネの現状は?」


『外部及び内部機器の整備は全て完了。新武装は1部ですが搭載が完了しています。最終確認を行っていないため正常に使用できるかは不明です』


 よし、間を置いて落ち着いたいつもの彼女に戻ったな。


「グリーゼ工廠の技術士を数名搭乗させたい。アルキオネ発進後、戦闘開始まで新武装のチェックをしてもらう。司令官室との回線を常に開けておいてくれ、指示があった場合そちらを優先する」


『Copy――』


 アストは指示を出し終え、一旦回線を切る――その時だった


 アストの後ろから1人の少女が駆け抜けていった。




 ――その情景は最初、ひどい既視感か、覚えていなかったはずの夢かと思った。

 

 それが既視感でも夢でも、その時、その中の自分は追い抜かれた後は立ち止まって「一緒に行こう」と手を差し伸べる彼女の手を取る。はずだ――


 きっと彼女は振り返ってくれると思う。だからアストは立ち止まった。


 

 

 だけど……


 銀色の髪をなびかせ、パイロットスーツに身を包んだ彼女は振り返ることなく走り去っていった。


 夢とも既視感とも違った。アストは我に返り現実だと理解し、走り去る銀髪の少女が行く先を考える。

 

 恐らく士官学校が保有しているディオニューソス級が停泊している場所へ向かっていったのだろう。そうなると既に士官学校側にも出撃待機命令が出ているのかもしれない。



 であれば、俺もこんな場所で立ち止まっている場合ではない。


 

 その後アストはアーシアとソフィアと合流し、軍用車両へ乗り込みアルキオネへ向かった。




 ***




北暦290年 

ケプラー日時 12月10日 16:38

第2超巨大コロニー グリーゼ 北2番ゲート


宇宙連合軍 第2艦隊 グリーゼ防衛部隊

 超天帝級戦艦 《ゼウス級》 2番艦 スィネルギオ ブリッジ



「規模は?」


 白髪のオールバック、顎から もみあげ まで繋がった白髭。渋い風貌の老いた男はゆったりとした口調で聞いた。


『ヘルメス級 12番艦 プロノモスによりますと、最低でも小型 60 中型 20 大型 2体は免れないとのことです』


「――そうか」何かを考えるように左手で髭を触ると、彼の左腕の動きに合わせて左胸の数えきれない勲章が輝いた。

 


 グリーゼからたった12,000km先で発生するとは、厄介なものだ。ここも安全宙域ではなくなるか……



「独立部隊 アサナトスより入電」


 例の新設部隊か……


「――繋げ」


 スィネルギオの艦長席ディスプレイに女性司令の姿が映し出される。


『エルキュール提督、ご無沙汰しております』


春夏秋冬ひととせか、何の用だ?」


『単刀直入に申し上げます。 南8番ゲートに我が部隊のアルキオネが待機しております。グリーゼ宙域での戦闘許可を願います』


「アルキオネ……アルベルトの亡霊か、いまだに健在とはな。誰が指揮しておる?」


『天音アスト中佐であります』


「あの小僧か、そうかそうか……」エルキュール・シュバリエ宇宙連合軍大将はアストの名を聞いて、思い出し含み笑う。


「"完全"独立部隊なのだろう?好きにやってみせい」


『……ありがとうございます。失礼いたします』



 まさか、あのエルキュール提督が許可なさるなんて……

 彼の名前を出した途端、明らかに機嫌が良くなった。あの日の彼の功績は、いまだ上層部には一目置かれているのね……


――私も負けてられないわ



 一花は模擬戦を中止しアルキオネに移動しているであろう天音アストへ連絡を取った。


「アスト艦長、グリーゼ宙域での戦闘を許可します。準備ができ次第、アルキオネ発進して下さい」






 半世紀前、ケプラーに続き安全宙域に指定されたこの場所へ、第2超巨大コロニー グリーゼを建造したはずだった。


 調査結果通り、今日これまで一度もこの宙域に奴らは現れたことが無かった。

 しかし積み上げてきた人類の安全宙域指定の理論は、この瞬間に破綻した。やはり人類は、この太陽系にいる限り、応戦、防衛を強いる日々を送らざるを得ないのかもしれない。

 

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