再会と新世代 Ⅱ´(番外)

――模擬戦が行われる前日


北暦290年 

ケプラー日時 12月9日 7:30

第2超巨大コロニー グリーゼ 宇宙連合軍 士官学校 外来宿舎 B棟


「――朝……か」


 アストとアルキオネのDDパイロット3人は明日の模擬戦に備え、士官学校の宿舎で宿泊していた。


 9:00から士官学校のケイ・シルベリア校長(中将)に挨拶があるが、まだまだ時間がある。


 さて、シャワーを浴びて朝飯でも食いに行くか――


 自分の母校ではないが、数十年ぶりに士官学校の校舎を歩く。流石に当時と同じような設備を見かけることはないけれど、どこか懐かしさを感じる。


 

 食堂は朝練を終えた訓練生で賑わっていた。

 


 1人で音楽を聴いてる奴、DDの操縦動画などを見てる勤勉な奴、何やら作戦会議をする奴ら、楽しそうに笑って雑談する奴ら。


 こういうところは俺らの時代と変わらないな。


 

 その中に紛れて、見知った顔ぶれの3人が仲良く朝食を食べていた。



「休んでていいのに、随分早起きだな」


「んー!?あふぁねふぁんほお天音艦長おふおうごふぁいまふおはようございます!」


 アーシアはパンをムグムグと頬張りながら挨拶をしてくれた。


 「行儀が悪い……」とリリアがアーシアの口元を手で隠し、申し訳なさそうにアストへ会釈する。


 ソフィアは「おはよ」と相変わらずマイペースに、クルクルとスープをかき混ぜている。


「なかなか旨そうだな」


「そうなんですよ!ここのパンふわふわで――」


 と力説されたのでパンのある朝食セットを頼み、彼女たちとは別の席で1人、ゆったりと食事を楽しむ。


 確かにめちゃくちゃ美味しくなってる……士官学校の食事もここまで改善されているなんて――ここ最近で1番感動したかもしれない


 


 その後、ケイ・シルベリア校長との挨拶も簡潔に終わり、暇なので士官学校内をぶらぶらと歩いていると中庭に出た。



 巨大なガラス張りの建物に目を奪われる。



――へぇー。温室があるのか


 アストはおもむろにガラス張りの建物の扉を開ける。


 中には様々な木々の美しい緑が広がり、見たこともない色取り取りの花々が咲いていた。空気は暖かく少し湿度があるように感じる。

 

「訓練生時代だったら、こんな場所に来ることはなかっただろうな……」


 まったり道に沿って歩いていると水生植物が管理されている場所へ辿り着いた。


 水辺の脇には丁度良さ気なベンチが設置されている。


 アストは腰かけると、水面に浮く名も知らぬ花を見つめる。


「――綺麗だ」と呟くと、気になったので端末を取り出しその花を調べた。


「スイレンっていうのか」


 それっぽい花の名前を知り、満足した。息を吐きながらガラス張りの天井を眺め、目を閉じる。


 訓練生時代って……俺、あの時何やってたっけかなぁ――

 


 

 風になびく髪。


 パイロットスーツに身を包んだ彼女は振り返り笑顔で俺のことを呼ぶと、手を差し伸べる。


 

 

――アスト!一緒に行こ!




――ッ!?



ケプラー日時 12月9日 16:38



「――寝てたのか」

 


 いつもと違う環境で寝たからなのか、それとも士官学校の懐かしい日常風景の所為か、アストは忘れてしまった誰かの夢を見た。

 

 夢の内容は何も覚えていない、だが目を覚ました瞬間は懐かしい気持ちと、どこか切ない気持ちで、心が満たされていた。



 

ケプラー日時 12月9日 22:57

第2超巨大コロニー グリーゼ 宇宙連合軍 士官学校 外来宿舎 B棟


 実戦以外でDDに搭乗することが数年ぶりなのと、3人同室で寝泊まりしていることも相まってか、彼女たちは高揚感で満たされていた。


「1対1かぁなんだかワクワクしちゃうね!」


「わたし、さいしょがいい」


「いいよー!リリアさんどっちにします?」


「どちらでもいいわ。だけど――」


「「だけど??」」


「訓練生の中にエースパイロットがいるみたい。今回の模擬戦に出てくるかは分からないけど……って天音艦長が言ってた」


「えーすぱいろっと?」


「訓練生なのに?」

 

 全員が、ん?と首を傾げ、盛り上がっていた女子トークが一瞬だけ沈黙した。


「実戦経験があるとか……かな?」


「恐らくね」


「つよそう」


「男の子かなぁ?女の子かなぁ?」


「そういうこと言うのって大抵男子でしょ」


「そっかぁ……もしかしてリリアさんの訓練生時代にそういう人がいたんですか?」


「まぁ……名前は忘れたけど」


「そのひと、アーシアとおんなじだね」


「私は別に自分のことエースパイロットだなんて思ってないなー。小型なら任せろっ!とは思ってるけど」


「中型さえ簡単に細切れにするくせに」


「細切れまでは切りませんよー!」


「みじんぎり、えい」


「イテテ、ソフィアちゃんやったなー!」


「うわー」


「……怪我しないでよ?」


 彼女たちはその後も、旅行先で宿泊しているかのように盛り上がるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る