再会と新世代 Ⅶ


『我々だけが向かったところで、状況が良くなるとでも?』


『なると思うわ』


 アストはいまだにアルキオネ単独での発進に、一花との会話を思い出していた。


 一花司令は今回も俺達が加勢に入れば、なんとかなるとでも思ってないだろうな!?――クソッ……



「最も近い通報艦から味方、敵の位置情報を貰え。解析結果に基づき側面より主砲及びイヴサ アセンドの光子固定砲フォトンランチャーENIMエニムを叩く」


「Copy――」

 

 嘆いても仕方ないが、こういう時にリリアの狙撃力が欲しい……


「第42艦隊 32番艦パルラスより返答、解析結果送ります」


 右の宙域が僅かに混戦……あちら側にはスィネルギオもいる


 

「――最大船速を維持しつつ取舵、主砲第1目標、大型ENIMエニム。対ENIMエニム誘導ミサイル一斉発射でDD発進の進路をとる」


「Copy――最大船速、戦闘宙域の左方向へ向かう。第1気密シャッター閉鎖。主砲及び自動砲座 開放。ミサイル・ベイ、全ハッチ展開」



――"Drive Dollドライヴドール USP-G005 LM" 起動シークエンス開始――

 

 メインエンジン/コンタクト――

 

 AI D/起動――ヴィジランスレッド感知。

 

 メインモニター/オンライン――

 姿勢制御システム/オンライン――

 ウェポンシステム/オンライン――

 背部追加武装コンテナミサイルを感知――コネクション正常

 ASSAULTアサルトギア コネクション正常


 登録母艦 U275B-AR-5――アルキオネ 通信接続



「全システム、異常なし!準備完了しました!」


『"DD1番機ヴィナミス" 起動を確認。第2気密シャッター閉鎖。左舷リニアカタパルトへ固定。発進スタンバイ』



『続いて"DD4番機イヴサ アセンド" 起動を確認。右舷リニアカタパルトへ固定。発進スタンバイ』



 アストは艦長席からDDパイロットへ通信を繋ぐ。


「ソフィア、戦況の解析結果を送る。イヴサ アセンドの火力が重要になる局面だ頼むぞ」


『わかった』



「アーシア、ヴィナミスにASSAULTアサルトギアと背部追加武装のコンテナミサイルを接続する。足の遅いイヴサ アセンドを護衛してくれ」


『了解です!エクスィーはお留守番ですね!ヴィナミスはエクスィーと同じグレートフォールズ社製なので凄く馴染みます!訓練機のトワソンは動きはいいんですけど――』


 こんな時でもいつもと変わらない彼女が、本当に頼もしいといつも思う。


「さて、そろそろか……?」


 アルキオネの右舷側から第51番艦隊とENIMエニムの激戦がまるで他人事の様に繰り広げられている。このまま何もしなければ、アルキオネのクルーは誰一人として怖い思いをせずに済むだろう。だが――



 ――いつも通り、やるしかない



「目標、大型ENIMエニム。主砲、発射!」


「アイアン・デューク――てぇ!!!」


 サラ副長の掛け声と共にアルキオネの主砲が放たれる。

 主砲は数体の小型ENIMエニムを蹴散らし、ほぼ半壊状態に近いクラゲ状の大型ENIMエニムの側面に命中した。

 傘が裏返るようにめくれ上がり、被弾した部分から連鎖的に爆発を起こすと、最終的にはワームホールから湧き出始めていた小型ENIMエニムをも巻き添えに、大爆発を発生させた。


 こりゃ、我ながら少し目立ちすぎたな


「DDを出撃させる。対ENIMエニム誘導ミサイル一斉発射開始。主砲、第2射の用意急げ」




『両舷リニアカタパルト ハッチ開放します。――左舷リニアカタパルト音声認識接続。発進どうぞ』


「了解っ!――"ヴィナミス"。アーシア・アリーチェ、行きます!」


『右舷リニアカタパルト音声認識接続。発進どうぞ』


「りょうかい。――イヴサ アセンド。ソフィア・フォン・シェーンベルグ でます」



 アルキオネから対ENIMエニム誘導ミサイルに紛れ2機のDDが出撃した。


 黒い装甲に包まれた機体は早々に、巨大な手マニピュレーターを展開し、その巨大な手で近場の小隕石に機体を固定する。


 光子固定砲フォトンランチャーを第2装甲の胸部から腹部に接続し、解析結果に基づき最も敵を巻き込める場所を割り出す。

 

 巨大な直列2連のタービンが徐々に回転し始め光子の充填を始める。

 背部の灰色の第2装甲が展開し小型推進器の複合体と放熱板が露出した。


 光子収束率――85%


 その光の収束に、誘導ミサイルから逃れた小型ENIMエニム数体が気付き光子口砲フォトンカノンを発射し、襲いかかる。が、イヴサ アセンドには光子境界フォトンシールドがある。


「ぜんぽうにみかたなし。これ、おかえしね。ふぉとんらんちゃー はっしゃ」


 ソフィアは撃ってきた相手に迷いなくトリガーを引く、背部の小型推進器の複合体は反動を相殺するために同等の推進力を導き出し、そして光子固定砲フォトンランチャーによって発生した膨大な熱を放熱板が周囲に逃がすと、青色に輝いた。


 機体を固定するために掴んでいた小惑星は小型推進器の複合体と放熱板の熱によって融解され元の大きさの半分以下になっていた。


 DD1機から照射されたとは思えない光子の線は襲ってきた数体の小型ENIMエニムの大半とその奥にいる無数のENIMエニムを呑み込んだ。


「いっぱい たおせた」


『冷却中は任せて!ソフィアちゃんには近づかせないよ!』


 アーシアが駆るヴィナミスは既に光子刃フォトンブレードを展開させ、ソフィアが撃ち漏らした素早い小型ENIMエニムを流れるように処理していく。





 ここまでは、順調か……


「ソコロフ大尉より緊急入電」


「リリアから?繋いでくれ!」


『天音艦長!……申し訳ありません。彼らが……訓練生だけで戦艦を!』


「なんだ?どういう――」


「パルラスより入電。本艦後方より援軍?……いや、訓練艦!?――約4600km後方、ディオニューソス級 12番艦 テレテ、戦闘宙域に突入しています!」


 アストは訓練艦に向かったであろう銀髪の少女の後ろ姿が脳裏を過る。


「――なっ!?まさか、あの訓練生達か!?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る