新たな部隊と舞台 Ⅳ
北暦290年
ケプラー日時 12月3日 21:18
第2超巨大コロニー グリーゼ 南8番ゲート近郊
「…………長……ださい…………艦長!!――
「……………………りょうかぁい」
「また寝ぼけてる!!もうすぐグリーゼに到着しますよ!?」
「んうぅ、後10分…………」
「もう、しょうがないなぁ……」
何度このやり取りをしただろうか。と思いながらも、世話係のメアリー・エドワーズはせっせと身の回りを用意する。
「また副長に叱られても知りませんよー!!」
その一言にアストは ガバッ!! と勢いよく起き上がる。
「今日は大事な初の部隊会合なんですから、しゃきっとして下さいね」
「そうだった……ありがとう」
「いえいえー」
アストは艦長服に袖を通しながら艦長室の大きいディスプレイを横目で見る。
窓のない艦長室には気分転換になるように外部の映像が映し出されている。どこまでも果て無く広がる宇宙と星々、それと、あれは軍事演習だろうか?複数のDD部隊とディオニューソス級 《練習艦》が1隻見えた。
ケプラー日時 12月3日 22:25
第2超巨大コロニー グリーゼ 完全独立部隊アサナトス軍事施設
第42艦隊管轄の作戦宙域 支援任務を終えた アルテミス級 5番艦 アルキオネは 完全独立部隊アサナトス の司令官である
艦長 天音アスト中佐、副長 サラ・ブラウン少佐、DD部隊隊長 リリア・ソコロフ大尉の3人は、いまだに映像通信ができない
正直あの人と会うの嫌だなぁ……色々面倒なことを言ってくるだろうし……
「こちらです」サラ副長がグリーゼ内部の情報を頭に入れてきてくれたお陰で、すんなり司令官室の前まで辿り着く。
少し迷ったりでもしてくれればもう少し可愛いんだけどなぁ……こういう抜け目ないところを見ると、俺より艦長の素質あるのに。ってその都度思う。
そんなことを思っていると自動扉の前で思わず大きい溜息をついてしまった。
しっかり者な2人の視線が少し痛い。背筋を正し、自動扉の横に設置されている小型カメラへ「天音アスト中佐、以下3名入ります」と声を掛ける。
少し間が空いて『どうぞ!待ってたわよー』とカメラ下の音声機から返事が聞こえると、扉が開いた。
一歩踏み込もうとして、3人は驚愕する。
中は一番奥の大きいモニターが青白く光る以外は真っ暗でよく見えず、目を凝らすと、そこは司令官室とは思えない謎の機材まみれの いわゆる汚部屋だった。
機材の奥からひょっこっと顔を出し「さぁ!入って入って!」と3人を招き入れる。
足の踏み場を考えながらゆっくりと司令官の座るデスクの前まで辿り着いた。
「アルテミス級 5番艦 アルキオネ 艦長、天音アスト中佐。21:45 着港いたしました」
デスク周りだけ意外と小奇麗に整頓してある。
「よくぞここまで来たわね!」
いや、魔王か何かかよ!と突っ込みを入れてしまいそうになるが咳払いし、冷静に質問をした。
「この部屋の有様は一体どうなさったんです?」
「いやぁ色々と頼んで、無事届いたのだけれど……専門外で」
リリアとサラ副長は何も言わないでいるが、どこか呆れているような雰囲気だ。
これは……マズいな……
「とりあえず、電気くらいつけましょうよ」と言い終わる前にサラ副長が電気をつけてくれた。
部屋が明るくなって、綺麗な大人の女性が露わになったかと思えば、余計に汚部屋の解像度が上がると女性2人は目を伏せ残念そうな顔をした。
「秘書や独立部隊の技術スタッフとか……誰かいらっしゃらないんですか?」
「――見ての通りだけど?」
何故偉そうにふんぞり返っているのか……司令官だから偉いんだけれどもさ
「……では後でうちのクルーを派遣しますので――」
「本当!?いやー助かるわね!」
ミーティングの時よりも話し方が砕けた感じで余計やりづらいなぁ……仕事に身が入らない。
ガルシア司令官のタバコ臭いあの司令官室がこんなに恋しいと感じる日が来ようとは……
「さて!結果報告から始めましょう!多分その辺に転がってるのがホログラムの投影機なんだろうけど……」
「僭越ながら私から口頭にてご報告させていただきます」
サラ副長は手元の電子端末で第42艦隊管轄の作戦宙域 支援任務、約1週間分の状況や戦績等を事細かに説明した。
「あぁっと……兎に角、ご苦労だったわね!」
口頭だけじゃ頭に入らないよな。でもまぁこれで結果報告は終わりかな――
アストは
「私の言った通り、あなた達だけでも第42艦隊の状況は良くなったでしょう?」
しまった……そのやり取りを忘れていた
「今回もあなたに助けられた人は大勢いる。アポロン級 20番艦 リノス 、 27番艦 ガラマス。あの場にあなた達が居なければ、全滅していたかもしれない……」
口頭説明だけで端からしっかり覚えているのか……
「あの時はソフィアが上手く対処してくれました」
「えぇ、でも災難だったわね……初日から
「何はともあれ、あなた達は無事にここへ到着できた。私とは最初、一悶着あったけど、これからは同じ釜の飯を食う仲間、仲良くしていきましょ?」
彼女は立ち上がり手を差し伸べる。まだ少し気が乗らないアストだが「よろしくお願いします」と握手した。
「ところで、
「一花でいいわ」
「では一花司令官、俺たち以外の新たに配属される人員や艦隊などの予定はどうなっているんですか?」
「あー……それなんだけど……至る艦隊に声は掛けているのよ?ただ、引き抜きが思った以上に上手くいかなくって……」
ガルシア司令官は彼女の申し入れを一早く聞き入れたということか……
「だから今の私は艦隊を束ねてないから、司令官じゃなくて司令かな。あ、でもね丁度グリーゼでは軍事演習を満了する訓練生の子たちが沢山いるのよ。そこから何人か引き抜こうと思っています」
「毎度、人手不足の戦場に向かう戦艦に実戦を知らない訓練生では――」
「あら、私はあなたの船が一番安心だと思うのだけれど?」
付き添いできた2人もうんうんといつの間にか彼女の味方になっている。
「それに、誰よりも先に前線を知りたがる子の方が優秀だったりするわ。まぁその辺は私のスカウト力に任せておきなさい」
さっきまで引き抜きが上手くいかないとか言ってたけど本当に大丈夫なのだろうか……
「さぁ!アルキオネのクルーも全員一緒に今日は パァ〜っと行きましょう!」
ガシャガシャと機材の海を歩く一花司令に続き俺達も歩き始める。
ガラクタの様に転がる最新鋭の機材たちを見て、やることが沢山あるなぁ。と思う……だけど
ここのところ戦いに明け暮れていたんだ。
俺も今日くらいは、俺たちの新たな部隊と舞台に乾杯しようと思う。
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