新たな部隊と舞台 Ⅲ´

Namedネームド サレプティシャス秘密不正と戦闘する 5日前――


北暦290年 

ケプラー日時 11月18日 10:00

アルテミス級 DD搭載強襲揚陸艦 5番艦 アルキオネ 艦内 ミーティングルーム




『我々の新たな部隊の名は――"完全独立部隊アサナトス"!! そして私が司令官の"春夏秋冬 一花ひととせ いちか"だ!よろしく!』


 ワー とクルーの少しやる気のない歓声と拍手がアルキオネのミーティングルームに響く


『さぁ!君たちの新たな舞台の始まりだ!』


 とかなんとか言ってるけど……


「部隊の詳細は読みましたけど、人手不足な宙域に我々が向かうって認識で良いですか?」


『そ!そゆこと!』


「これって言っちゃえば、いいように使われてるだけ――」


『というわけで!早速、 第42艦隊管轄の作戦宙域へ向かってもらっています!小型のENIMエニムが大量に出現しているようです。ジリ貧状態になりつつある第42艦隊をENIMエニムの出現率が下がるまでサポートします』


「それはいいんですけど。春夏秋冬ひととせ司令官、なぜ映像が無く音声だけの通信なんです?」


『あーそれは……機材がまだ届いてないのよ!』


 なんか適当だな……大丈夫か?


「ちなみに、我々以外の人員はどうなっています?」


『まだあなた達だけよ?栄えある第1部隊ってやつね!』


 …………もしかして、この人ダメな人か?


「我々だけが向かったところで、状況が良くなるとでも?」


『なると思うわ』 何を根拠に言っているのか……彼女は即答した。


『……あの日以来――噂は耳にしていた。天音アスト中佐率いる"不沈艦"、アルキオネ――本当かどうか実力を見せて欲しいものね』


 突然、けろりとしていた春夏秋冬ひととせ司令官の雰囲気が変わり、どこか凄みを感じる。


 唯々その地位に選ばれた置物司令官かと思ったが……だけど、それより

 

 ある一言がアストのしゃくに障る。


「その不沈艦って言うのやめて下さい。なにか勘違いしているのかもしれませんが――戦場では、目立たないように基本に忠実に動いているだけです。実力もなにも、ありはしませんよ」

 

 俺が凄腕の艦長で名采配を繰り出しているわけではない。その噂は全て、優秀な船員達のお陰だ。今も、昔も……


「気に障ったなら謝るわ。だけどね天音アスト艦長、あなたが思っている以上に、あなたに助けられた人は沢山いるのよ」


 その後も話は続いたが、険悪な雰囲気のまま、完全独立部隊アサナトスの初のミーティングは終わった。




ケプラー日時 11月19日 02:00




 第42艦隊管轄の作戦宙域まで、まだまだ時間がかかる。艦長である俺も観測班と共にレーダーから目が離せない時間が続き、気疲れする。正直、通報艦ヘルメス級がいないこの距離を航行するのは少し骨が折れる。

 


「後は頼んだぞ」



 観測班には頭が上がらないな。いや、この戦艦ふねに乗ってくれている皆にか……


 1度DD格納庫へ顔を出してから部屋へ戻るか……


 格納庫へ移動してる時、通りかかったDDパイロット待機室から声が聞こえた。

 悪いとは思いながらも聞き耳を立てる。

 



「だけど春夏秋冬ひととせ司令官って、なんだかアスト艦長に雰囲気似てたねー!」


「普段は気が抜けてるけど、言うことはちゃんと言うタイプだね」


「そうそう!私、結構好きかも!」


「じゃあ、あすとのことも すきなの?」


「なっ!?そそそ、そんなことない!ソフィアちゃんこそ好きでしょ!?」


「うん、すきだよ?」


「うぅうう!! ずるい!ずるいよソフィアちゃん!このカワカワのロリっ娘がぁぁー!」


「うわー」


「何やってんのよ……」



 ほんと、何やってんだか……


 不沈艦と呼ばれたいわけじゃない。23年間沈まなかったのは――あの時も、どの時も……だから彼女達の帰ってくるこの場所だけはって……


「似てる……か、同族嫌悪かな……」


 アストは呟くと待機室を迂回して格納庫へ向かうのであった。

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