第1章

新たな部隊と舞台 I

北暦290年 

ケプラー日時 11月11日 20:37 

超巨大コロニー ケプラー北2番ゲート近郊


「…………長……ださい…………艦長!!――天音あまね艦長!!起きてください!!」


「……………………いきまむぅ」


「寝ぼけないでください!!もうすぐケプラーに到着しますよ!?」


「んうぅ、後5分…………」





 ケプラー日時 11月11日 21:00 

 宇宙連合軍 第三艦隊 司令官室




「ご報告します。ヘルメス級 23番艦 エウドロスは アテナ級 3番艦 ミネルヴァと合流。2日後の 15:00 帰港予定です」


「うむ」


「アルテミス級 5番艦 アルキオネ。アポロン級 31番艦 ガレオテス。予定時刻通り、現刻 2番ゲートへの帰港を確認しました」


「両艦に繋げ」


「Copy――ディスプレイ表示します」




『アポロン級 31番艦 ガレオテス艦長、ジェームズ・ジョンソン少佐。帰還いたしました』


『アルテミス級5番艦、アルキオネ"副長"、サラ・ブラウン少佐。21:00 ケプラー北2番ゲートへ帰港いたしました』



「ご苦労……」


 第3艦隊司令官アーノルド・ガルシアは労うも、ディスプレイを見て頭を抱えた。

「結果報告の前に」と、サラ・ブラウン少佐を少し睨む。


"天音"中佐ではなく、君かね?」


『はい。中佐は現在、仮みn――』『あー!お待たせいたしましたガルシア司令官!』


 突然、男性がサラ・ブラウン少佐を慌てて画面外へ押しのけた。

 

 被り損ねて斜めっている艦長帽、寝癖でボサボサの黒髪、袖を通しただけの艦長服、曲がったネクタイ。そう、彼が――


『アルテミス級 5番艦 アルキオネ 艦長、天音アスト中佐。現刻21:00 かぁぁあ――?!』


『アスト艦長こちらへ、ガルシア司令官。申し訳ございません、少々お待ち下さい。』


 ガルシア司令官はやれやれと首を振る。


 ガレオテス側の映像からは笑い声の音声が聞こえる。


 アルキオネからの映像が途切れたが、ものの数秒できっちり身だしなみを整えた天音アスト中佐が映し出された。


 それがツボだったのか笑い声は勢いを増し、ガルシア司令官はため息を吐き、緩い空気の中、戦闘結果の報告を開始させた。


 司令官室の照明が暗くなると、中央に光が浮かび上がる。

 光は徐々に形を成し、複数の宇宙戦艦のホログラムが映し出され、各戦艦の上に名称が表示された。

 



型式番号:U275B-AR-5

  艦名:アルテミス級 DD搭載強襲揚陸艦 5番艦 アルキオネ


型式番号:U287D-AP-31

  艦名:アポロン級 DD搭載駆逐艦 31番艦 ガレオテス


型式番号:U281D-HR-23

  艦名:ヘルメス級 DD搭載通報艦 23番艦 エウドロス


型式番号:U279P-AT-3

  艦名:アテナ級 DD搭載防護巡洋艦 3番艦 ミネルヴァ




 4隻のホログラムは移動し、その時の艦隊陣形を模した位置へ移動する。


 その後、戦闘したと思われる Extraterrestrial Non-Identical Monster 通称ENIMエニムと呼ばれる宇宙怪獣の数。小型 12体 中型 2体 の位置と形状を映し出し、ホログラム上で再現した戦闘映像が再生された。


 通報艦からの情報伝達のタイミング、主砲やミサイルの発射理由、人型兵器Drive Dollドライヴドール出撃時の状況等々を司令官へ洩れが無いよう報告をする。





『以上で今回の戦闘結果報告を終わります』


 そういうとホログラムは消え、司令官室の明るさが元へ戻った。


「確認した。ガレオテス及びDDのメンテナンス終了まで休暇とする。――久々のケプラーへの帰還だろう?ジョンソン少佐、ゆっくり休みたまえ」


『ありがとうございます!失礼いたします!』


 ジェームズ・ジョンソン少佐は敬礼をすると通信ディスプレイの映像を切断した。


 それに合わせて天音アストも『自分も失礼いたします!』と画面を切ろうとする――


「少し待て」 


――ですよねー 『……何か。御用でしょうか?』 まぁ……怒られるよなぁ



「君には、まだ言うことがある」とデスクの上にある重厚なシガーケースから煙草を取り出し、咥え、火をつける。


総司令官から、命令があってね」そう言うと深呼吸をするように煙草を深く吸って吹いた。

 

『――総司令部から……ですか?』


「あぁ、そうだ。――君が第3艦隊に配属されて23年になるかな?今回も、これまでも、君が指揮してきたアルキオネは大きな被害、損害もなく――」


 お偉いさん特有の長ったらしい言い回しを、ただただ頷いて聞いてる様に見せる。

 ガルシア司令官とは、かれこれ数十年の付き合いだ。この態度には呆れを通り越して既に何とも思っていないだろう。

 

 いつの間にか吸い終えた1本目の煙草を灰皿にこすりつけ、もう一度シガーケースに手を掛ける。

 「まぁ、そう身構えるな」と新たに取り出した煙草を人差し指と中指で挟み、デスクに肘を立て、煙草をこちらへ見せつけるように腕を肘から前後に動かし、嬉しそうに口角を上げた。


「簡単に言うと、"引き抜き"だよ」というと再び煙草に火をつけ、旨そうに吸う。




 約200年前に宇宙連合軍は太陽系全宙域防衛戦線に基づき"宇宙連合艦隊"を引き連れて第2の地球として、このケプラーを建造した。

 

 そんな初期宇宙連合艦隊は現状、第1艦隊から第56艦隊まで分かれ、総司令官総司令部が隊員の配属先やらを決定するのだが、太陽系規模で散り散りになっている所為で、他の艦隊に仲が良かった奴でもいない限り誰がどこに所属して何をしているのか、どんな活躍をしているのかは 噂 程度にしか知り得ないのだ。 


 俺たち軍人は皆、忙しい。(寝坊したけど)


 だが悲しいことに戦闘中の戦死者KIA行方不明者MIAなんかはきっちり伝達されてくる……

 軍人歴28年。覚えきれない程いた俺の同期は、片手で数えるくらいの人数しか生き残っていない……と思う。


 その中でも第3艦隊歴23窓際社員の俺が今更別の艦隊に引き抜きって……若き期待のDDエースパイロットじゃあるまいし……



「きな臭いなぁ……」


『新しい艦隊、というより独立艦隊。遊撃隊……いや、独立部隊というのが正しいかもな』


「ど、独立部隊!?――で、ありますか?」


『うむ。まだ正式な部隊名、新たに配属される人員などは決まっていないが。追って報告させる。――天音アスト艦長、アルテミス級 DD搭載強襲揚陸艦 5番艦 アルキオネ。搭載機や一部クルーはそのままに、新たな部隊への移動を命ずる。第3艦隊での23年間、ご苦労様……何かあった時は迷わず私に連絡しなさい。――以上だ』


 ブツン とディスプレイの映像が消えアストは放心状態になった。


 

 そんな事を急に言われても……



 ――もしかしてこれって……リストラってやつ?

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