きっかけ

 高校は、同じ学校を受けた。

 ワタシという生き物は、好きな事には徹底してわがままを貫く。

 一方で、大嫌いな勉強は、とことん苦手だった。


 実をいうと、メイは頭が良い。

 昔がどうだったかは知らないけど、今のギャルは頭の良い子が多いみたいだ。というのも、偏差値の高い学校に多くのギャル達が入学したからである。


 ワタシは地方にある、まあまあな偏差値の学校に入学。

 メイはもっと上を目指せたはずだが、わざと電車を使わなくてもいい地元の高校に入ったのだ。


 高校一年生となれば、他校からの生徒達を顔を合わせ、本格的に交流が始まる。学校生活の全てが決まるといっていい。


 ワタシは――ぼっちになった。


 まあ、グループ行動という忌々しいものがない限りは、一人の方が気楽である。


 もっぱら、ワタシは他の生徒と話さないで読書。

 スマホでは、映画を観たり、ゲームをやったりしている。

 正直、誰かと関わらないで生きていけたら、これほど幸せなことはなかった。


 メイは早速クラスの子達と仲良くなった。

 机に座って、ワタシといる時とは、違う表情を見せた。

 嫉妬はないかな。

 ワタシの場合、一人の方が好きで、望んでいる面もある。


 でも、メイは寂しがり屋なところがあるので、他の人と仲良くしている方が、自分事のように嬉しくもある。


 そして、ある日。

 授業の休み時間の時にゲームをやってると、一人の男子が話しかけてきた。


「大原もゲームやってんだ」


 一言で表すのなら、汗っかきのデブ。

 肥えた大仏って感じかな。

 メイには言っていないけど、ワタシは男子に対して拒絶の意思はない。


 好みのタイプだってある。

 それが、まさしくデブの男子である。

 ワタシは匂いがとにかく好きで、鼻が良すぎた。

 香水と油の混ざった激臭で、吐いたこともある。


 そのデブの男子というが、後々イジメの原因になる佐藤くんだ。

 大きくて、太い体。

 肉布団と言えばいいのか。

 ワタシは彼の肉に、少しだけときめいてしまった。


「う、うん」

「レベル俺より上じゃん。サポートしてよ」

「いい、よ」


 自然と笑みがこぼれてしまう。

 ゲームで相手のレベル上げを手伝っていると、視線を感じた。


「メイ~。どしたぁ?」


 同じクラスのメイが、石のように固まっていたのだ。

 口は半開きで、目がカッと開き、視線には念がこもっていた。

 明らかに、怒りを必死に押し殺している。


 さすがにヤバいかな、と背筋が寒くなったのを覚えている。


「な、何でもない」

「今日さ。カラオケ行こうよ」

「あ、はは。ごめぇん。今日、ちょっち用があってぇ」

「え~?」


 メイの話し声を聞きながら、ワタシはサポートに勤しむ。

 佐藤くんは微妙な空気の変化を読めなくて、満面の笑みでボス攻略を喜んでいた。


 教室でこんなことをしていると、陽気な方々はこう話す。


「あれ、キモくない?」

「うわ……。豚汁飛ばすなよ」


 豚汁とは、言い得て妙だ。

 豚のような男子が、豚汁のような汗を飛び散らすのだから、女子たちは嫌がっている。


 ワタシだって、汚すぎたら無理だけど。

 別に汗ぐらいでは、どうってことはない。


 顎の肉をプルプル震わせ喜ぶ佐藤くんが、何だかおかしくてワタシは笑ってしまった。


「メイもそう思うでしょ?」

「……うん。……マジで……キモいよね」


 絶対に後で来るだろうな、と予感している。

 メイを見ると、周りには見えないように、少しだけ俯いてワタシを睨んでいた。


 私怨に満ちた形相というのは、本当に恐ろしい。

 久々にヒヤッとしてしまったくらいだ。

 ともあれ、これがイジメのきっかけだ。


 陽気な方々には目を付けられ、机の落書きや水浴びはもちろん。

 仲間外れは――元々一人だから、何とも思ってない。

 特に、肉体的に攻撃してくるのは、メイが主だった。


 ワタシはしょんぼりしているか、人形のように黙り、「すいません」と謝るだけ。


 徐々にメイが勝ち誇った顔を浮かべるようになり、学校では立場が逆転した。


 常にイジメられ、どんどん追い詰められていく。

 他のイジメられっ子からしたら、「うわ」という状況。

 ただ、世界中にいる他のイジメられっ子と違うのは、ワタシとメイの特殊な関係か。


 このイビツな関係は、そうそうないだろう。


 佐藤くんと初めて接触した日の夜。

 メイは寝間着姿でワタシの家に来た。


 その日からは、今までとは違う、もう一つのラインを超えたわけである。

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