一線

 ワタシとメイが性行為キスをしたのは、中学二年の頃だった。

 大人からすれば、信じられないかもしれない。


 でも、ワタシから言わせてみれば、法律どうのこうのではなくて、「アンタ達の時代もでしょ」というのが本音である。


 前置きを踏まえて言うと、中学二年になった頃には、周りに男子と付き合い始めた子達が続々と現れ始めたのである。


 当然、セックスをする子達が日に日に増えてきた。

 中には、先生とヤッた子もいた。


 この頃は、当たり前のようにメイは、ワタシの家に入り浸るようになっていた。

 二人で遊ぶときは、もっぱら映画鑑賞。

 ワタシはホラーが好きで、怖い物をよく観る。

 でも、メイは嫌いなので、いつも腕にしがみついてきた。


 ある日、全く興味がない恋愛映画を観たのだ。

 ノートパソコンで配信サイトを検索していると、女の子同士の恋愛が出てきた。


「み、……観たい」


 メイがおねだりをするので、試しに観たのだ。

 すると、女の子同士が股の間を舐め合うシーンから始まった。


(興味ねー……)


 と、卑屈な態度を取っているのがワタシ。


「っ。……わ。わぁ」


 股を擦り合わせ、ボーっとした目つきで観ているのが、メイだった。

 中学時代のメイは、イジメられることはなく、男子から超絶な人気と好意を寄せられていた。


 セミロングの髪を高い位置で結び、ポニーテールにしていたのだ。

 犬の尻尾みたいにフリフリしていて、可愛らしかった。

 メイクも少しだけ覚えて、ギャルの片鱗を見せ始めていたっけ。


「エイコ……」


 熱っぽい視線を感じた。

 ワタシはぐでーっとしていたけど、メイは熱が増したらしい。

 膝を抱えていて、頻りに股を擦り合わせていた。

 メイの変化に気づいたワタシは、ドン引きすることなく、後ろに回る。


「同じことしたい?」

「……うん」


 メイがワタシに絡みついてくるのは、しょっちゅうだった。

 子供キスも、しょっちゅう。

 けれど、一線を越えたキスは、まだだった。


 メイにとっては、刺激が強すぎて、変な気を起こしたのだろう。

 生憎、ワタシは小説やら映画やらで、知識は豊富。


 自慰だってしたことがある。

 その一方で、メイは初心うぶだった。


 教室ではギャル特有の開放的オープンな笑い方をする。

 でも、性的な話題になると、頬が引き攣るのを堪えていた。

 ピアスをした耳は真っ赤になり、すぐ目が充血気味になる。


「におい、すご……」

「え、く、臭い?」


 彼女のいる男子なら、大体見当はつくと思う。

 女子は男子に比べて、体臭が濃い。

 ようするに、興奮すれば匂いで分かるのだ。


 肩に顎を乗せて、ワタシは両足でメイの股を開かせた。

 スカートの中から込み上げてきた、メイの匂い。

 メイは必死にスカートの端を押さえたが、ワタシは許さなかった。


「すっごい、臭い。最悪」


 お漏らしをしたかのように、濡れた下着に触れる。

 背中を擦るように、優しく撫でてあげると、メイは口を押えた。


「ちゃんとお風呂入ってる? 本当に臭いよ」

「う、うう! も、もう、いい!」


 身をよじるメイの首に腕を回し、ワタシはずっと呪文を唱える。

 この子は、イジメればイジメるほど、ワタシに依存した。

 こうやってメイの体を触りながら、実験もした。


 どの程度の強さがいいのか。

 弄り方だったり、形だったり。

 全部、特殊な知識として吸収したのだ。


「メイはいつも臭いもんね」

「臭く、ないもん」

「うそ。ほら。においが、どんどん濃くなってる」


 事実、部屋の中にはメイの蒸れた匂いが充満した。

 ボディソープの香りに混じった体臭。

 鼻から空気を取り込むと、鼻孔の奥にメイの匂いが溜まっていく。


 気が付けば、メイはワタシに身をゆだねていた。

 自分から股を開き、背をこちらに預け、頻りに腰を動かしている。


「メイのせいで、部屋中汚れちゃうよ」

「……っ……ぁ……ん」


 爪と爪で挟み込んでいるが、メイは嫌がらない。

 結構、痛いはずなのだけど。


 ワタシの腕の中で小さく体を跳ね、メイは言うのだ。


「い、たいよ。エイコ……ぉ……っ」


 口端からは涎が垂れていた。

 目は熱っぽくて、焦点がいまいち合っていない。

 蕩け切った表情を初めて見た瞬間だった。


 気づけば、ワタシの手の平は体液で光沢を帯びている。

 汚れを拭うつもりで、また汚れた下着に擦り付けるのだ。

 自然とメイの額に、自分の額を重ね、ワタシはまだまだ呪文を吐き続ける。


「変態で、どうしようもなくて。臭くて、最低の女だよね。ワタシに申し訳ないと思わないの?」

「……ぐずっ。ごめん、なさい」

「もっと謝って」


 上気して赤く染まった顔が、涙と汗と涎で濡れる。

 自分がどんな顔をしているのか、メイは気づいていないだろう。


「ごめ……、あぐっ……」


 痛がらせるつもりで、強めに弄ると、メイが息を呑む。

 小刻みに震えた体は、ワタシが力を緩めると、安心したように吐息が漏れた。


「ごめん、な……しゃ……い」

「メイは気持ち悪いよ」

「ごめ……さい」

「惨めで、汚い子なんだよ」

「……ごめ……んむ」


 この時に、初めて一線を越えた。

 熱くなった唇は、乾燥していた。

 唾液で濡らしてあげようと思って、舌を這わせただけ。

 だけど、メイは映画の真似をしたのか、ワタシの舌に吸い付いてきたのだ。


「ぁ……むぐ……えい……こ……。ん……変態で……ごめん……なしゃい」


 メイの舌は、メロンの味がした。

 たぶん、映画を観ながら飴を舐めていたせいだろう。

 ざらついた表面に舌が重なると、脳みそを直接刺激されてるみたいで、ワタシの方がおかしくなりそうだった。


(……生意気だなぁ……)


 メイに感じてしまった事が許せなかった。

 ワタシは舌先でメイの口内を探索した。

 メイは目を閉じているけど、ワタシは反応を見るために、ずっと体の動きと鼻息、声に意識を向ける。


 舌を重ねていると、安心した子猫のように大人しくなる。

 でも、歯茎に舌を這わせた途端、鼻息が荒くなった。


 気が付けば、口の周りはお互いの唾液でびしょ濡れだった。

 どれぐらい経っただろう。

 映画はエンドロールを迎えており、内容は何も覚えていない。


「エイコ……ぉ……」


 首の裏に両腕を回され、メイが必死に舌を吸ってきた。

 この時、ワタシは中学生でありながら、気づいてしまった。


 性行為が、一つのコミュニケーションであることを知ってしまった。

 メイが貪っている間、ワタシまで自己主張をすると、メチャクチャになる。だから、ジッとしててあげるのが、一番良い。


「……ん……ごくっ……」

(こいつ。飲んじゃったよ)


 汚いし、気持ち悪い光景だろう。

 ドン引きするだろう。

 だから、二人きりでしかできないことなのだ。


 それに、メイは何の躊躇いもなく、ワタシの唾液を飲んでしまう。

 ワタシは若干抵抗があるけど、口に含んでいる以上は、似たようなものだった。


 口を離すと、メイが蕩け切った顔でしがみついてくる。


「や、やだぁ……」

「いや、一度離してくれない?」

「やだ。もっとする」


 唾液と混じり合い、四方八方に伸びた口紅。

 グロスを塗ったように光沢を帯びたメイは、蜂蜜に濡れたかのようである。


 恐らく無意識だろうけど、メイは自分で股の間を弄っていた。

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