第2話 憂鬱な体育祭

「ついに…やってきてしまった…ゔああああ…やりだぐないよお…」

死にそうな声で生徒会室で呻いているのは、生徒会執行部の一人であり

図書委員長の「村坂 真央」

普段は奥の書斎に籠って、資料を片づけたり本を読んだりしているのだが

珍しく全員が集まる会議机に座っている。

同じく会議机でオセロをしていた部活動委員長の「空上 三坂」と、保体委員長であり、三坂の双子の兄の「空上 二幸」が真央に注目する。

「やってきてしまった…って、何が?」

三坂も、不思議そうに首を傾げる。

「分かんない!?体育祭だよ!た・い・い・く・さ・い!」

「あー…」

二幸が、納得したように相槌をうつ。

三坂は、まだわからないような顔をして兄を見つめていた。

「生徒会は生徒会チームとして出席し、代表の挨拶を担当しなければならない…

 リレーは強制出場だっけ?」

「…!」

三坂はやっと理解したらしく、ポンと手のひらをうって、真央を見つめた。

「そうだよ!私は運動が嫌いだから図書委員に入ったのに!なんで強制参加なんだよ!ふざけんな!」

三坂がオロオロと心配そうに二幸を見つめるが

二幸はバッサリと真央の言葉を切り捨てる。

「いや、それは生徒会に入るときにちゃんと聞いてなかった真央が悪いでしょ」

「聞いてた!聞いてましたとも!ちょっとぼーっとしてただけで!」

「聞いてないじゃん」

無論、今更委員長を辞めることなどできるはずもなく、だからこそ真央は絶望しているのだ。

「しかも、何!?代表挨拶って!いらないじゃん!先生に任せろよ!」

「それは仕方がないですよ。仮にも我々は生徒会なのですから」

給湯室から出てきた伊予が、紅茶のポットを棚から取り出しながら真央をなだめる。一緒にいた藍が、落ち着いて―、と困った様子で真央をなだめようとしているが、そんなことは知らんこっちゃないと言わんばかりに、真央は駄々をこねる。

「知らないし!そんなの!ほんとやだぁ!めんどくさい!目立つ!やだ!」

伊予が真央のテンションを雑にあしらいながら、紅茶を入れる。

「カモミールティーというハーブティーです。気持ちを落ち着かせる作用があります」

「その気遣いの仕方ちょっと腹立つな!飲むけど!」

「ありがとねー、伊予」

「お気になさらず」


藍がティーポットを片づけに給湯室に入ったところで

賢太と風香が生徒会室に入ってきた。

「!!」

「あー!お嬢!結構早く帰ってきたねー」

びっくりしたような表情の三坂と、礼儀など無視して風香に話しかける二幸。

そんな二幸の足を伊予が踏みつけ、ぐりぐりしながら礼をする。

「お早いお帰りですね、お嬢様」

「うん。先生の用事が早く終わったんだ。賢太のおかげでね」

「いやいや、お嬢の方がすごいですから」

賢太の言葉が謙遜ではないことは、誰の目から見ても明らか。

世から天才と称される風香よりも賢太が活躍するなど、正直ありえないのだ。


学年トップの成績を保ち続ける天才、菅宮 風香。

そんな彼女だからこそ、生徒会長という仕事が務まるのだ。

足の甲をぐりぐりと踏まれた二幸は、半泣きになりながら風香に紅茶を勧める。

美しい所作で紅茶を飲む風香に、先ほどまで嘆き叫んでいた真央は息をのみ

頬を赤く染め、うっとりとした表情で風香を見つめる。

そんな真央に目を向けて、賢太は首を傾げる。

「真央ちゃん、さっきまで叫んでたみたいっすけど、なんかあったんすか?」

賢太は、話し方こそ下町訛りではあるが、家柄は結構高い。

この変な話し方は、相手の素性を伺うという理由も兼ねている。

…と言われているが、実際はちょっとその話し方に憧れている節も無くはない。

「ああ、体育祭が嫌だー!って叫んでたんだよね。ねー、真央」

「なっ…!お嬢様!違います!いや、違わないけど…」

真央は必至で言い訳を考えながら目をさまよわせる。

「でも、体育祭が嫌だっていう気持ちは私もよくわかるよ。

 私だって体育祭は少し憂鬱だ」

「嘘つけ」

憂いのため息をこぼす風香を、賢太がおもいきりつっこみを入れた。

そんな二人を三坂は半眼で見つめ、伊予は完全に無視して話を進めた。

「体育祭の準備は道具や予算の整備、誰がどこで何をするのかまで

 きっちり決めなくてはなりません。お嬢様のお力が借りられれば…」

「もちろん協力するよ。私も生徒会の一員だからね」

生徒会の一員というより生徒会長本人である。

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カンペキな君は僕の幼馴染 青空冬 @Huyu44

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