シン・サザエさん
夏目 漱一郎
第1話磯野家の家族大会議
その日の午後八時、磯野家ではサザエの提案のもと食卓を囲みながら今後の家族の動向に著しく影響を与える議題の家族会議が粛々と行われていた。
「サザエ、それ本気で言ってるの?」
「当り前よ!私、今まで黙っていたけどもうこれ以上我慢できないわ」
「そうか…サザエがそんなに悩んでいたなんて…ごめんよ、僕がもっと早く気付いていればよかったんだ」
「マスオさんのせいじゃないわ、もっと早くこうやって話し合っていればよかったのよ」
改めて責任の所在を追及する事はせずに、もっと建設的に話し合いましょうと穏やかに微笑むサザエ。その笑顔にマスオはなんだか救われたような気持ちになり自分も安堵の微笑みを彼女に返した。
「それで、サザエは一体何が気に入らないんだ…ん?」
見つめ合う二人の間に水を差すように波平が口挟んだ。その口調には、この一家の主は自分だという威厳が少なからず含まれている。
「お父さん、気に入らないなんて言ってないでしょ。サザエは、話し合った方がいいと言ったのよ」
フネがフォローを入れる。こういうところの気遣いは、さすが波平の妻である。
「そんなの同じようなもんじゃないか。要するに今のままじゃ不満だと言いたいんじゃろ?」
「言い方ってものがあるでしょ?家族の間でそんなに棘のある言い方をしなくても…」
「お父さんはそういう細かい気遣いが苦手なんだよね♪」
カツオが割って入る。
「うるさいっ!お前は生意気な事を言うなっ!」
「まあまあ、さっきから話が前に進んでませんよ。サザエ、それで今日の議題は何かな?」
マスオが慌てて話を元に戻すと、サザエは軽い咳払いをしてから話の本題に入った。
「今は令和6年でしょ?私達もそろそろキャラ設定のリニューアルが必要だと思うの!だって、サザエさんて昭和44年からやっているのよ?さすがにもう限界でしょ」
「昭和44年っていうと、54年やってる訳か…じゃあボクどうして小学生なの?」
このアニメの、決して触れてはならない問題にカツオが触れた。
「いや、カツオはいいのよ。ミッキーマウスだって100年以上鼠やってる訳だし、そんな事言ったらお父さんだって…」
ネットの情報によると、波平の最初の設定での年齢は54歳なので、令和6年では108歳という事になる。
「ばっかも~ん!なにをくだらない事をいっておるかあああっ!」
「ねっ、そういう訳だからべつに小学生でもいいのよ…だけど、さすがに54年も一緒なのは気が引けるから…」
サザエは顎に手をあてすこし思案すると、カツオに向かって言った。
「アンタ、今年中学受験しなさいよ!」
「えええ~つ!なんでだよおおっ!」
「やっぱり、年号が二つ変わってるから中学ぐらいにはいって貰わないとね!」
「だったら、公立でいいよ、僕!」
「だめよ!磯野家の学歴はそのまま日本人の平均的な学歴に反映するんだから!」
「カツオ、日本の子供達の学力はすべてお前の学力いかんに懸かっているんだからな!」
かなり無茶ぶりな気もするが、これが国民的アニメのキャストの宿命なのだろうか……
「それからお父さん、お父さんにも注文があるわ!」
「儂も?」
サザエは、磯野家の主である波平にも容赦する事が無かった。
「お父さんの年齢は54歳…そう考えると、『人生100年』といわれる現在において、お父さんのキャラには明らかにおかしい所がいくつかあるわ」
「なんだ、おかしい所って?」
「お父さん、ハゲ過ぎてるのよ!」
まるで刑事ドラマで刑事が『犯人はあなただ』とでも言うように、サザエは波平の方を鋭く指差した。
「し…仕方ないだろこれは!儂だって好きでハゲてる訳じゃ無いわい!」
「それじゃあ困るのよ!言ったでしょ、『サザエさん』は日本の中流家庭の平均値…その主が54歳でハゲて貰っちゃ困るのよ!」
「サザエ、お前そんな変な髪型してよく
「私こそ、好きでこんな髪型して無いわよ!最初からこうだったんだからしょうが無いでしょ!」
「なんだ姉さん、それ好きでやってたんじゃなかったんだ」
「やる訳ね~だろっこんなダセー頭!」
余程ストレスが溜まっていたのか、サザエは身に着けていたエプロンを丸めてテーブルに思い切り叩きつけた。
「もうアッタマきた、やってらんない!」
「お姉ちゃん、そんなに怒らないでよ」
と、ワカメが健気にも宥めるのだが…
「ふん、アンタの髪型もたいがい変だけどね!」
「酷~い!」
「サザエ!いい加減になさい!」
「……………」
結局、サザエは翌日美容院に行き波平は薄毛治療の相談へ行くことで話はまとまった。
♢♢♢
FIN
さーて、来週のサザエさんは
【浪平、ニューモのモニターになる】
【マスオ、新NISA始める】
【カツオの宿題はChat GPTで】
の三本でお送りしま~す♪ ジャ~ンケンぽん!
シン・サザエさん 夏目 漱一郎 @minoru_3930
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます