第16話
母の葬儀は圭子主導の元で行われた、しかし参列者は私の関係者のみであり圭子の関係者は一人も来なかった。圭子は甲斐甲斐しく挨拶を交わし、自分が葬儀の主役になっていた。
葬儀が終わっても圭子はお金の清算は私に一切報告せず、余ったお金と母の保険金は全部自分がとってしまった、私が問いただすと「私が仕切ったのだから当然でしょう」と言い取り合わなかった。
私はその後、初7日、49日は圭子に任せて出席はしなかった。
母が亡くなったことで父の遺族年金は終わるのだ。圭子はそのことを認識しているのだろうか。僕はその時の圭子の状況を想像すると空恐ろしさを感じた
半年経った、めずらしく圭子からの電話だ。一瞬無言のあと「年金が振り込まれないのよね、どうしてなの」圭子は私にやつあたりするかのように言葉を吐いた、私は「母さんに対する遺族年金だから終わるのは当然だよ、」と冷静に答えた、すると圭子は開き直ったような口調で「じゃ、あなたが何とかしてよ。長男でしょう、扶養義務があるんだから」圭子の言葉はもはや支離滅裂になっていた、私は強い口調で返した、「姉さんのところには大学を出た大人が2人いるだろう、世間じゃ誰も姉さんのことを同情なんてしないよ」私はこれ以上の会話は時間の無駄だと思い電話を切った。それから電話が何度か鳴ったが圭子からの電話には一切出なかった。
母が亡くなってから1年が経とうとしていた、私は母の1周忌には出席しようと思い圭子のところを訪ねてみた。
私は車で実家に向かい、実家の前にさしかかったがうっかり通り過ぎてしまった、一瞬、道を間違えてしまったのかなと思い車を止めた、バックミラーで後ろをみると実家がない、車をバックして実家の前に来たら更地になっていた。その土地の前で車を止めて一瞬、考えてみた、どこに行ってしまったんだろう、そうだ市役所の住民課で聞いてみよう。
私はその足で市役所へ行き現住所の確認をした、昔と違って簡単には教えてくれない、姉との関係やら理由やらを聞かれてようやく教えてくれた。
姉一家は郊外の古い戸建てアパートに越していた、車を降りて玄関の古い木製の引き戸を引き大きな声で「こんにちは、」というと奥のドアがあいて姪の明子が涙声で駆け寄ってきて「お母さん死んじゃったのよ、おじさんがいなくなっちゃったから毎日不安で、病気になってしまったのよ、おかあさんは、いつもひどい、ひどいと言っていたわ」私は呆れて絶句した、私は逃げるように車を走らせ、もう姉一家のことは忘れることにした。
帰省一家 小深純平 @estate4086
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