王国との交渉
【国王 side 】
数時間後。ノーマンランド王国の国王とその宰相はやっと腰の治療から開放された。ただし完治した訳ではなく、何日かの連続的な療養が必要だそう。
「さてさて、彼らはどうなったかな」
「ホーリィ様がついているのです。きっと魔王を討ち取ってくださるでしょう」
「でもあやつアホじゃからなぁ」
「・・・・・・」
「そこは返事してやらんか」
権力者とて人の父。息子達が無事か否か、気になって仕方ない。
そんな自分らのもとに小間使いが「失礼します!!!」と飛び込んできた。
「王太子御一行が戻りました!!!」
「おお! そうか、皆無事か!?」
「魔王を連れて」
「魔王を連れて???」
しれっと爆弾が放り込まれた。確かに討伐を依頼したはずなのに、なんか連れてきたって言った。
「邪魔するぞ」
「わーーーもう来た!!! お待ち下さい!!! 窓口を、窓口をご利用ください!!!」
小間使いの叫び虚しく。
どこかで見たようなフォームで扉が蹴り開けられる。
「ただいまです! 脅しに帰ってきました!」
そこには勇者のガワを被った魔王(人間版)がいた。
「何故!?」
「私を帰す為の話し合いをさせるために!」
「お前達どうしてこんなバケモンを呼び寄せたんだ? もうちょっと良い奴いただろう」
「魔王から言われるとは相当ですな・・・・・・」
魔王(魔物版)がひょっこりと姿を現す。その後ろに金色と銀色が見えた。
「ホーリィ!! 勇者様を落ち着かせ・・・・・・て・・・・・・」
「・・・・・・ブレイン? どういう、え、どういうことだ?」
息子達は確かに無事だった。ホーリィに鞘以外の傷は1つもなく、強いて言えば土埃を多少浴びた痕跡がある程度。僥倖だった。
ホーリィには金糸で蒼い宝石を囲むように刺繍が施された飾りが。
ブレインには深紅の粉が散りばめられた銀細工が。
――2人に首輪が加わっていなければ、素直に喜べたのに。
「首輪の作り方なんて教えるんじゃなかった」
「気づいたらやられていたな。壊せない・・・・・・」
「うん、壊せても壊さないでね? 爆弾って説明したよ?」
とんでもない情報がサクッと告げられた。爆弾。そんな、なぜ。
「魔王の仕業か! 卑怯な真似を!!」
「アタシではないぞ。冤罪をかけるな」
「貴様以外に誰がいるのだ、たわけ!! 王太子殿下にあのような物を着けるなど!!」
いや、いる。国王を前にして衝撃発言を繰り出せる人間が。王太子を人質にする動機がある人間が。
「まさか・・・・・・勇者様・・・・・・?」
自分の声が掠れている。流石に違うと思いたかったのかもしれない。やるかやらないかで言ったらやりそうだけれども。
「そうッスね! 爆発と同時に可視化魔法が発動することになっているんで、ホーリィ様やブレインさんの秘密をバラされたくなければ大人しくしてください!」
合ってた。思わず天を仰ぎ見る。天井の模様がとても綺麗だった。流石は職人仕事だ。
「父上・・・・・・父上、どうか・・・・・・どうか・・・・・・」
「お父様! もしもがあれば貴方がアルコールに呑まれた時の語録集を全国民に晒します! くれぐれも慎重にお願いしますよ!」
「ブレイン!? 貴様この父を脅すか!?」
ホーリィがピィピィ鳴き出している。ついでに連鎖反応でジェネラル家の残酷さが出てきた。親子仲良くして。
「本当は私も魔王姉さんを脅して帰る予定だったんですよ?」
「だが、コイツの世界の座標を知っている訳ではないからな。適当な世界に放り込むつもりだった。そこを人間版オークが・・・・・・」
「人間版オーク!? 魔物をホーリィ扱いするでない!」
「父上?」
異世界に座標という概念があることを初めて知った。やはり魔物の使う魔法は人間のそれとはレベルが違うのだろうか。
すぐに息子と威嚇し合っていた宰相を呼び寄せる。
「魔王。お主は異世界の座標とやらが分かれば勇者様を元の世界へ帰してやれるのだな?」
「ああ。ここにはそれを確かめに来た」
彼女の表情からは「コイツ嫌」という感情がよく伝わってくる。呼んだ側としても正直とっとと帰したい。この勇者怖いから。
だが、そうもいかない。勇者という脅威がいる間が人間にとっての勝負なのだ。
「座標を渡してやっても良いが・・・・・・如何せん、我々は敵対していることになっておるからのぉ。国民がいる前でお主の頼み事に易々と応えてやる訳にはいかんのだ。『王』ならば分かるじゃろうて」
「第一、事前に何の知らせもないままに一国の王を尋ねるとは礼節に欠けるだろう? その非礼についてはどう説明するつもりだ?」
2人がかりで圧力をかけていく。魔王がやけに大人しいのは魔王軍からも誰かが人質に取られているからだろう。・・・・・・ちょっと脅しすぎではなかろうか、あの勇者。
「まどろっこしい言い回しをしないで、お前達の要求を言えば良かろう。後でこちらの都合と擦り合わせてやる。だから座標・・・・・・コイツの召喚に使った魔法陣を見せろ」
本気で嫌みたいだ。長い期間の敵対関係を差し踏まえても少々哀れに感じた。
「それならば僕が再現できます。だからタマ様、これを外していただけませんか?」
「顔が良いおかげでどちゃくそ似合っているからダメです」
「そうですか・・・・・・」
「私は?」
「顔面ハーバード卒業生に似合うよう頑張ったのでもっとダメです」
「そうか・・・・・・」
隙あらば外させようとする姿勢は素晴らしい。勇者自身が脅迫よりも見栄え重視で着用させたらしいため無謀に終わっているが。
「現物でなければ難しいですか?」
「いや、線の重なりと紋様の間隔が把握できれば充分だ」
「了解しました」
ブレインは下手に食い下がる真似はせずに作業を始めた。怯えながら様子を伺っていた部下に紙と杖を持って来させると、ゆっくりと召喚魔法の簡略図を作成する。
「ノーマンランド」
魔王が呼びかけてきた。息子のホーリィと同時に顔を向けたが、彼女はこちらの方を見ていた。ホーリィが静かに天井を眺め始めたところで魔王は口を開く。
「・・・・・・顔、変わったか?」
「そもそも別人じゃ・・・・・・」
「そうなのか」
魔王と直接対峙した国王は300年前で最後だ。まず間違いなく自分のことではない。
魔王は少し黙ると、こちらへ体ごと向き直った。
「お前はどうして勇者を呼んだ? ああ、1番手近な答えなら分かっている。魔王、つまりアタシを殺すためだろう。では何故アタシを殺そうと思った?」
理由か。そんなものは決まっている。
「この種族戦争を終わらせるためだ」
自国の民が生き長らえるため。幸福を与えられるよう、王としての責務を果たすため。
その答えを聞くと彼女は僅かに口角を上げた。
「だったら、今度は茶菓子でも持ってこよう。事前に使いを送るから殺さないよう気をつけてくれ」
その意味がすぐには汲み取れず、ひとまず殴る体勢に入る。ジトッとした視線を感じて振り返ると宰相が蹴る体勢に入っていた。
「和平交渉の申し出と受け取っても?」
宰相の問いかけに魔王は意味深な笑顔で語る。
「これ以上・・・・・・あんなモン、呼ばれたくないなって・・・・・・思ってな。可能性は潰すさ」
「すまんかった・・・・・・」
「呼びました?」
「呼んでない!!!」
暇になった勇者が首を突っ込んできた。
「魔王! 書けました!」
「良くやった。後はアタシに任せろ」
さながら歴戦の戦士が単独で魔王に挑むような台詞を吐いた。魔王が。彼女がブレインから魔法陣の簡略図を受け取ると、その直後に黒い魔法陣が床全体に広がった。
「この魔法陣に入れば元いた場所まで戻れるはずだ。約束は果たしたぞ」
「わーい! よっし、じゃあ帰りますね! さよなら!」
勇者は意気揚々とそこへ飛び込んでいく。
魔王が浮遊魔法で引き戻した。
「おい待て!!! 爆弾を解除していけ!!!」
「え? あっ、そうだったそうだった! ちょっと待ってくださいね〜」
人質のことを忘れていたらしい。非道の極みにいる。
勇者がパチンッと指を鳴らすと同時に、ホーリィとブレインの首元からカシャンと音が聞こえた。
金色と銀色が光になって消えていく。やがてそれらが完全に消失した時、幼馴染達はようやくガッツポーズを決めた。
「助かった!!! 良かった!!! 父親の恥を晒さずに済んだ!!! 良かった!!!」
「本気で晒すつもりではあったのか貴様」
「父上! 本当に、私は、本当に・・・・・・! 試験での補習なんて受けていないんです!! 現に証拠だってありません!」
「バカ息子・・・・・・」
「こっちも監視魔法で確認した。あの犬猿の仲達が抱き合うとはな。いっそ、たまには協力型の訓練でもさせてみるか」
四天王も爆弾が解除されたらしい。魔王が軽く息を吐いた。
「じゃ仕事終わったので!」
今度こそ、と勇者は足を進める。
「――あ。でも、個人的に気に食わないことはあったし・・・・・・よし。サプライズでも置いて行きますね! さようなら!」
指を鳴らす音と共に、人間のガワを被った爆弾魔は消えた。
「・・・・・・え?」
「サプライズって何だろうな? スライムのグニグニとかか?」
「多分プレゼントって意味じゃないと思うよ」
「じゃあアタシは一旦帰る」
「あっ、逃げるな貴様!!」
宰相が怒声とともに一歩踏み出す。
カチッと、何かが起動する音。
爆破と同時に全国民へ晒された文字は【私は勇者を騙して魔王城に送り込みました 〜アルコール摂取時の語録を添えて〜】だった。
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