魔王との交渉
【魔王 side 】
しばらく経った後の魔王城にて。
「魔王様!!!」
「急いでいるからって床をぶち破るな」
連絡係の巨大コウモリが再び損害を出していた。
「四天王が戻ってきました!!!」
「さっき全滅と聞いたんだが?」
「勇者一行に捕縛されて」
「捕縛」
思わず言葉を繰り返す。今回の勇者はよほどの手練れらしいが、なぜそこで四天王を捕縛するのか。
「で、今は玄関の扉を破壊されて中央突破されています!!! 奴らがこの100階に辿り着くのも時間の問題になってしまいました!!!」
「そんな報告無かったぞ」
「オイラ以外の連絡係は全員殴られて気絶させられましたので!!!」
「貧弱すぎないか?」
「殴ったのは王族の男です」
「あの人間版オーク一族が・・・・・・待て、逆になんでお前は生き残っているんだ?」
「それは銀髪の男から伝言を預かってて。『お邪魔しますので茶会の準備でもしていてください。王太子もいらっしゃるので、くれぐれも丁重に』ですって」
「あの人間版悪魔一族が・・・・・・」
人間を支配しきれない理由は国を統べる2つの名家にある。
王族であるノーマンランドがバカみたいな身体能力を有し、様々な形で王族のサポートを担うジェネラルがバカみたいな魔力を有する。
更にそれだけではない。奴らは人間が魔物より弱いことを自覚している。だから、異世界人を加勢させるだなんて弱者根性も甚だしい真似を思いつくのだ。本当に腹立たしい。
ふと、コウモリに目を向ける。そういえばコイツには何の仕掛けも施されていないのか。これも窓をぶち破ったり床に穴を開けたりでトラブルメーカーなのだが。
そう。まさに今、下から人間の頭が3つ飛び出したように。
「こんちゃっす!」
「貴様が魔王か。大人しく降伏してもらう!」
「僕は紅茶で」
「クソッタレしかいないのか」
噛み合わない会話のアホトリオに核が痛む。人間は『頭痛が痛い』と言うんだったか。
このイカレ野郎共を相手しているような暇は無い。戦闘に入る前に終わらせてやる。
しかし、ジェネラル家の者が指をヒョイと上に向けたことで状況が変わった。
「これで大人しく交渉のテーブルについてくれますよね?」
四天王が「わぁーん」と泣きながら浮遊魔法で引っ張られてきた。
「何してんだお前達!!!」
今までで1番大きい声が出た。
「や、なんか倒れてたんですよ。ところでお姉さんめっちゃ乳デカいですね!」
「ところでで始める話題か!!!」
このやたらフリフリした格好の女が今回の勇者らしい。どちらかと言えば悪魔側に見えるのだが。あと勇者を名乗るならセクハラすんな。
「ああ、言っておきますが。彼らを開放しようとしないでくださいね」
何の話だ。そう思い言葉にしようとしたところで気づいた。
四天王の首に何かがついている。しかも、それには何かが書いてある。
「生物の生死を問わず操る『軍』、防御魔法を無効化する『オール・ブレイカー』、巧みな話術で組織の内部崩壊を起こす『愛の崩壊』、全てを特殊な炎で溶かす『熔解の紅蓮』。これらの重要な戦力を失いたくないでしょう?」
各々の表情を見てみる。嘘ではないらしい。どうやって脅されたのか分からないが、さっきからずっと揃って「わぁーん」と泣いている。
「地雷って地面に埋まる物ってイメージだったから、普通の首輪式爆弾を作れって言われた時は驚いちゃいましたよ〜。上手いこと作れて良かった!」
セクハラ女がニッコニコしながら言う。やはりコイツか。
どうやら今回の勇者の異能はかなりの攻撃性を有しているようだ。それを脅迫に転用させるとは恐れ入る。
さて。そんなに手強そうな相手なら、始めから戦わなければ良い。
彼らの足元に束縛魔法を発動する。すぐさまジェネラル家の男が解除魔法を使い始めたが、その一瞬があれば充分だった。
「――家へお帰り。【異世界転移】」
魔法陣のどす黒い光が部屋中を包み込む。空中にいる四天王は逃れられるはずだ。だから問題は無い。
そう思っていた。
「止めろ! 今戻られると困る!」
鞘が飛んできた。
反射的に魔法を止めて飛来物をはたき落とす。
先程とは違い、隙を作ってしまったのはこちらだった。
勇者が中指と親指を合わせてグッと力を込める。
「待て!! クソッ・・・・・・テーブルにつけ!!」
思わず叫んだ。
四天王が「わ・・・・・・わぁ・・・・・・」と鳴く。あんなんでも最高レベルの戦力。特に軍は痴女みたいな姿だが戦場においてぶっちぎりの性能。殺される訳にはいかない、あんなんでも。
「コウモリ! 厨房は無事か確認してこい。コックが生き残っていたら会議室まで人間用の紅茶と茶菓子を持ってくるよう伝えろ。アタシからの命令だ、というのも追加でな」
「アイアイサー!!!」
バサッと翼を動かして連絡係がいなくなる。ため息をついて会議室まで部屋にいた全員を転送した。人間との交渉なんてしたことがない。300年前までの魔王、横柄だった父親を真似てみるべきか。
魔界の樹木で作った椅子に座る。
しかし、自分に対面する形で着席したのは予想外の人間。
指を鳴らす音がした。
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