四天王との戦闘
【ブレイン・ジェネラル side 】
「タマ様、少々よろしいですか?」
草原を歩み続けて数時間くらい経った頃。三つ巴チートパーティーは森に入る前に休息を取っていた。それまでも魔物の襲撃はあったがいずれも低級だったため、ホーリィが盾でぶん殴ることで対処できていた。しかしここから先は違う。この先の戦闘はギミックを強要する物や物理攻撃の効かない物になっていく。魔物のレベルが上がるのだ。
つまるところ、とうとう彼女に頼らざるを得ない状況になってきた。父親の言動の意味を汲み取っていたブレインは肩を落とす。理解できないことは怖い。だからこそ、ブレインはジライ・タマに対してそこそこしっかり恐怖心を抱いていた。
「はい? 今ホーリィ様からスライムのぶん殴り方を教わっているところなんですが」
「アイツらは殴打が通用しにくいからな。まずはグニグニを裂けるだけの加速が必要だ」
「君の剣は飾りか何か??? なんでしれっとそっちに混じっているの???」
にも関わらず、ホーリィは普通に打ち解け始めていた。裏切り者。王太子だけど。
「あっちを出る前に言っていた検査、もとい特殊技能鑑定をさせていただきたいんです」
「それって私が何かする必要ある感じですか?」
「そうですねー・・・・・・鑑定が終わった後に軽くテストをしてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「スキル次第で!」
逆にテストする必要性のない特殊技能って何だろう。
指先に分析魔法を集中させる。そのままジライ・タマの額に人差し指を当てる。本人は「おっデコピンですか?」と言ってファイティングポーズの構えになった。止めてほしい。
『特殊技能:地雷 指定した場所に〚アイテム:地雷〛を設置する。
地雷→魔力が接触した後に該当魔力が離れた場合、爆発する。地雷の形状・サイズ・威力・爆発範囲などの細かな部分は術者が指定可能。また設置後は術者のみが消去可能』
ブレインは言語化できない感情に襲われた。これが勇者の力。これが。いや、魔王を倒すのも納得の殺傷力だが。もうちょっと分かりやすく正義っぽい力だと思ってた。
2人にも見えるように可視化魔法を使ったが、1秒も持たずにホーリィが顔を逸らした。やはりホーリィの理解度を高めるためにもテストは必要だ。タマに頭を下げてでも。
そう思って彼女に声をかけようとした。
「あっ、なんか見えた。ちょうどいいや」
タマがどこかへ向けて指を鳴らした直後。
森の中から爆発音が響いた。
【??? side 】
数分後の魔王城にて。
「魔王様!!!」
「いくら急いでいても窓をぶち破るな」
魔王と呼ばれる存在がツッコミをする異常事態が発生していた。
「失礼しました!! しかし、勇者の件について緊急事態が発生しまして!!」
「数時間前に召喚に成功したとかいう奴か。四天王を丸ごと向かわせただろ?」
いつぞやの勇者討伐の時みたいに、狩りには成功したが首を失くしたのだろうか。前に『熔解の紅蓮』――骨すら残さず溶かすことが由来の2つ名――が「そんなつもりじゃなかったのに」と泣きながら報告してきたことがある。そのパターンなら本人が来れば良いはずだが。前の魔王は息をするように折檻及び処刑をしていたが、今代は基本許している。
「四天王全滅しました」
「なにて?」
「四天王全滅しました」
【ホーリィ・ノーマンランド side 】
視点は戻り、勇者のガワを被った脳筋サイド。
「なんと言うか・・・・・・タマ様はやはり天才側の人なんですね。特殊技能の使い方を一瞬で把握してしまうとは」
「えへへ〜! デザインと効果を想像して自分で合図決めたらイケるかなって思って」
ホーリィは目の前で起きた全ての現象に混乱していた。
ジライが指を弾いた瞬間、森の中から爆発音が響いたのだ。ついでに甲高い悲鳴が一瞬聞こえた気もするが勘違いかもしれない。たとえ悲鳴が正しくとも森の中は人間が生きられる環境ではないため魔物のはず。ちなみに自分達はブレインがいるからなんとかなる。
「さっき何を仕留めたんですかね? 初めてだし治安の良い日本で育ったしで、とりあえず音だけが派手な爆弾をイメージしたんですけど」
「ああ、それで・・・・・・せっかくですから確認してみましょうか。ほら、ホーリィも近づいちゃってください。常時解毒魔法はかなり魔力を使うんですから」
森には毒素が満ちている。故にずっと解毒し続ける必要があるが、それを魔法のみで補うことができるのは国の中でもブレインだけだ。
ジライの傍に近づくと彼女からはサッと顔を逸らされる。スライムの殴り方を教えている時もずっとそうだった。そんなに自分のことが嫌いなのだろうか。そこまで怒らせるような真似をしただろうか。女性の扱いには気をつけているつもりなのに。
「はい、これで大丈夫ですよ。なるべく僕から離れないように気をつけてくださいね」
「はーいママ」
「僕男です」
「存じてますが」
「え?」
「え?」
「・・・・・・私は?」
「ヴァッッッ顔が良い」
「鳴き声?」
会話に混じったらまた目を逸らされた。寂しい。
そんなこんなでママにピッタリくっつきながら森を進み始めた。念には念を入れて自分・ブレイン・ジライの順で縦に並ぶ。しかしブレインから「逆じゃない?」と言われたためジライ・ブレイン・自分に変えた。
「会話って難しい・・・・・・タマ様、先程はどこで爆破しましたか?」
「大体あっち辺りです! 爆発したら私に位置情報が飛んでくるっぽいので分かります!」
「便利だ!? あっ失礼しました」
ふと、彼女が指した方向に邪悪な気配を感じた。
だからとりあえず剣をぶん投げた。
「何しているんですか!?」
「妙な気配を感じる・・・・・・ブレイン、ジライ殿、構えろ!」
「先に言いなよ!!」
「敵襲ってことですね。了解です。いざって時はブレインさんは私が担ぎます!」
「すまない、頼んだ!」
「頼まないの!! 優先度は勇者様の方が高いでしょ!?」
ただ考え無しに頼んだのではない。ブレインがいなかったら自分達は詰む。あとブレインがいればなんとかなる。だからブレインと勇者を優先的に守るのだ。頭脳は大事。
しかし気配は一向に動かない。何が起きたのだろうか。剣は牽制のために投げただけだが、まさか本当に刺さったのだろうか。
現場を確認するために先頭を自分に戻して進んでいく。
ジライから「そこです」と言われて立ち止まった場所。そこでホーリィは見た。
耳を抑えてうずくまる妖艶な美女、大の字になって転がる筋骨隆々な大男、うつ伏せで落ちている素朴な少女、樹に体を預けたまま白目を向いている褐色肌の少年。
それらを結んだ真ん中辺りにある凹み。
地雷が爆発した痕跡が、確かにそこにあった。
「言い忘れてましたが、人型の魔物は人間よりも五感が優れているんですよ」
「その心は?」
「音爆弾は意外と正解だったみたいってことです」
幸い全員が鼓膜の機能を果たす部位が故障したらしい。こちらに気づいてもろくに喋れていなかったり立てなかったりして滅茶苦茶だった。放置していても怖いので再び頭を殴って気絶させておく。
「じゃあ閃光弾とかシュールストレミングとかデスソースパウダーとかドクターフィッシュとか作りましょ!」
「2つ目から知らないので何とも」
「ちょうど4つあるし、全員に1人1つずつ体験してもらって感想を聞くか?」
「良いですね! よっしアンタら異世界転移させられる魔物のことと好きな地獄を教えな」
「すまん、さっき気絶させてしまった」
「それならしょうがないですね。あみだくじで決めますか」
「悪魔の会話ですか? ・・・・・・いや・・・・・・でも」
頑張って考えたのに。
しかし、ブレインが唇に指先を持っていったのを見て何も言わないことにした。彼からああいう癖が出る時は何か考えている。考えることならブレインの方が得意だ。だから自分は黙っていた方が良い。前に自分なりの意見を出したら杖で顎を殴られたから学んだ。
「平和は悪魔の手で成り立つものもありますね。長い歴史の戦争達が証明しています」
ブレインは微笑んだ。
自分は知っている。こういう時、敵対している相手はろくな目に遭わない。
「タマ様。少々、実験に付き合っていただいても?」
「いっすよ!!」
やっぱり魔王が少し可哀想になってきた。対立しているから仕方ないけれど。
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