魔王討伐への旅

地雷じらい たま 視点】


 某逃げるなの刃の主人公を担当する声優に似た声。

 後光を受けて輝く金髪。長い睫毛に彩られた碧眼。絵画のように美しい目鼻立ち。


 玉の推しピにひどく似た、王子様タイプ。


「わあああ!!!  近づくな顔面ハーバード卒業生!!!  私は推しピ一途なの!!!」

「なんて!?」


 勢いよく顔の向きを変えた。危なかった。あんな国宝を間近で見たらうっかり惚れてしまうではないか。ただでさえ推しに貢いでいるのに、異世界にすら推しを作ったら財布が御臨終してしまう。いや、異世界なら金の概念も違うかも知れないが。


「ホーリィ!  勇者様を止めてください!!  先程から我々の言葉が通じません!!!」

「翻訳魔法はかけていないのか!?  私にも彼女の言葉の意味が分からないのだが!」

「かけたし本人から自信を持つように言われました!  純粋に話ができないんです!」

「そんな・・・・・・そんな人間がいるのか・・・・・・? 言葉が分かるのに話ができない人間が?」


 ああ、顔面東大生と顔面ハーバード卒業生が何かワイワイと話している。目の保養だ。いや、なんてことを考えているのか。自分には推しがいるのに。こんな分かりやすいイケメンに屈してたまるものか。

 心に誓った相手を思い浮かべる。やっぱり推しの方がカッコいい。それでも急激に上がっていく頬の熱を冷ますため、両手をそこに持っていった。


「ええと・・・・・・勇者様?  すまないが、まずはその方から足を退けてくれないか?」


 言われて、ハッと足元を見下す。国王おぢが「ぎっくりいった」と呻いていた。外見よりはるかにおじいちゃんだ。あの程度の蹴りで陥落するとは情けない。そう思いつつも、玉は推し似の顔面ハーバード卒業生の言う事に従った。決して彼の顔に見惚れた訳ではないが。


「従った!!  ホーリィ、その調子で魔王討伐も依頼してください!  あと鑑定受けさせてください!」

「あの、言葉は分かっているんですよ?  だから帰るための世界征服をするだけですって」

「本当に翻訳魔法の不備じゃないんだよな!?  国王を前に征服するって言うか普通!?」

「勇者って・・・・・・何なんでしょうか・・・・・・?」

「しっかりしてくれブレイン!!」


 顔面東大生はブレインという名前らしい。顔面ハーバード卒業生はホーリィで合っているだろう。


「ゆ・・・・・・勇者様・・・・・・1つ、提案があるのですが・・・・・・」


 ふと、聞いたことのない声が耳に入ってきた。どこからだろうかとキョロキョロ見回す。そしてやっとのことで側近おぢが目を覚ましていたことに気がついた。


「お父様!!」

「騒ぐなブレイン・・・・・・腰に響く・・・・・・」

「お主もか・・・・・・」


 おぢ同士がなんか共鳴している。可哀想に。そんな可哀想な目に遭わせた張本人である自覚は無いままに、玉はちょこんと2人のおぢの間に座った。


「貴女様の強い想い、確かに伝わりました。つまりは魔王をも従えることで元の世界に戻る手段を探るおつもりなのですね?」

「大体そんな感じッスね〜」

「それでしたら、まずは東部に向かわれてはいかがでしょう?  実はその付近の魔物には異世界干渉を可能にする輩がいるのを確認しております」

「へえー・・・・・・確かにアテになりそう。確認しているってことは、ソイツのいる具体的な位置も把握しているんですよね?  教えてくれます?」


 その言葉にはすぐ返事をもらえなかった。もう1度蹴る体勢を整える。しかし、予想に反して側近おぢは再び口を開いた。


「ブレイン!  お前が勇者様と同行しなさい」


 沈黙が場を支配した。ブレインは確か、顔面東大生の方だ。


「そっ、れは・・・・・・私が不在では、魔術師団の皆が・・・・・・いえ、むしろ私程度の者が1人向かうより、魔術師団が総員で勇者様のサポートに回るべきではないでしょうか!?」

「それらがお前の足を引っ張らないとでも?」

「行って参ります」


 後ろの扉から覗き込んでいたモブ達が「わぁーん」と泣き出した。いや盗み見るな。


「なるほど。では、儂の息子であるホーリィも同行させましょう。親目線ではありますが、中々頼りになる男ですぞ」

「・・・・・・父上・・・・・・騎士団は」

「この者達の面倒を見れるのか?  魔王軍を前に?」

「承りました」


 近くでオロオロしていた兵士達が「わぁーん」と泣き出した。小さくて可愛い生き物か。

 顔面東大生と顔面ハーバード卒業生が、それぞれの所属団体らしいメンバーに片手を挙げて頭を下げる。


「ごめんなさい!  魔王軍相手だとちょっと、本当にごめんなさい!」

「すまない!  私の力不足だ!」


 双方から「わ・・・・・・わぁ・・・・・・」と聞こえてきた。いっそこのモブ共の方がおもしれー男かもしれない、と思い始めた。いずれも顔がモブ過ぎるからダメだったが。



「改めまして」


 顔面東大生がこちらに向き直る。


「僕は宮廷所属魔術師団団長、ブレイン・ジェネラルです。貴女様の旅路のご同行をお許しください」


 浮世離れした美形が恭しく頭を下げた。


「それでは、私からも」


 顔面ハーバード卒業生も自分の前で片膝をついた。


「私は宮廷所属騎士団団長、ホーリィ・ノーマンランドだ。貴殿の剣となり、盾となることをここに誓う」


 この流れは、あれだ。自己紹介だ。

 フリルのついたプリーツスカートをそれっぽく少しだけ持ち上げる。


「地雷玉です。好きな物は推しを始めとしたイケメン、嫌いな物は推しのアンチです」

「大丈夫かなぁ・・・・・・」

「魔王が?」

「僕らが・・・・・・」


 おかしい。これから自分達で魔王を〆に行くはずなのに。



【医療室 side 】


「相変わらずの策士め」

「・・・・・・勇者様は活発な方です。が、先程の反応を伺う限り、どうやら王太子のご尊顔に弱いようでした。1度も目を合わせていませんでしたから」

「ふむ。だが、それならなぜ先にホーリィを同行させなかった?」

「宰相ごときが王族の方に要望を告げるなど今まで聞いたことがございませんよ」

「ハッハッハッ!!  あやつは昔からブレインには頭が上がらないからの。儂が言わずとも先にブレインを送り込めば必ず着いて行っただろう」

「そのようなことは・・・・・・」

「分かっておる。あの阿呆が留年をせずに進級できているのはブレインのおかげだからな」

「かつての貴方と私のように?」

「黙らっしゃい。ああ、腰が痛い・・・・・・」

「奇遇ですな。私もです」



 こうして――。

 ホーリィ・ノーマンランドの顔に弱い地雷玉。

 地雷玉がひたすらに怖いブレイン・ジェネラル。

 ブレイン・ジェネラルに試験の命運を握られているホーリィ・ノーマンランド。


 三つ巴チートパーティーは、魔王城のある東部へ向けてノーマンランド王国を発った。

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