地雷系女子が往く! ~異世界征服物語~
緋衣 蒼
プロローグ
【??? side】
どうしてそうなった。
眼前に広がる景色を前に、ホーリィ・ノーマンランドは頭を抱えていた。王族として生を受け早16年。これまで自身の才覚と周囲の助けで様々な危機を乗り越えてきた。暗殺とか夜這いとか試験の赤点とか。しかし、その経験全てが無意味に思えるほどの情報量だった。
なぜ国王である父が地面に倒れ伏しているのか。
なぜ父の背中に足を乗せている人物がいるのか。
なぜその人物はおとぎ話の悪役みたいな笑い声を上げているのか。
なぜ――。
「要するに私が世界征服した方が早いってことっしょ! 目指せ最速RTA!」
「止めろ! 止めてくれ!! 止めてください!!!」
魔王を倒すために召喚した勇者があんなのなのか。
ホーリィは命令形からの鮮やかな三段活用を披露し、頭を抱えていた。
【主人公 視点】
時は戻り30分前。
いっけなーい! 遅刻遅刻! 私、
と、まあまあ濃密な回想を終えた玉は赤いカーペットの上で正座していた。周囲が完璧にお祝いモードに入っていることだけは理解できていたからだ。妙ちくりんな服を着た野郎が抱き合ったり涙を流したり。可愛い女の子はいないものかと目視で探るも見当たらない。
退屈だったため手に持っていたエナドリをストローで勢いよく吸っていたら、モブ共とは一線を画す美形が近づいてきた。
何かを喋りかけてくるも分からない。というか地球に存在するかどうかも怪しい言語だ。彼もそれに気づいたのか、玉の喉元のチョーカーと耳のイヤリングに指先を向けた。
「あー、あー、コホン。僕の話す内容が分かりますか?」
「うわイケボ。大丈夫です顔面東大生さん」
「・・・・・・上手くいかなかったかな・・・・・・? ガンメントーダイセイって聞こえた・・・・・・」
「合ってますよ合ってますよ! 自信持って!」
「逆に自信失いそうだけどありがとう」
そんな。こちらとしては最高峰の褒め言葉なのに。それが伝わっていないということは、少なくともここは日本じゃない。なんなら先程の動作で言葉が分かるようになったのならば地球の技術ではないだろう。
つまり、自分はどうやら異世界にやってきたらしい。しかも推しのための勝負服のまま。
「さて、こちらへどうぞ。今から簡単な検査をしますからね」
手を差し出してくる顔面東大生も銀髪に赤い瞳と中々アニメっぽいカラーリングで構成されている。しかもどれだけ観察してみても髪を染めているようには見えず、またカラコンを着用しているとは考えにくかった。
「? どうかされましたか?」
どうやら容姿の基準からして違うようだ。さすがは異世界。文字通り、面構えが違う。
この世界は広間の雰囲気から考えると中世ヨーロッパみたいな感じか。ならばこの時代には王が存在するはずだ。歴史とはそういう風になっている。少なくとも有力な人物の所有する建物であることは間違いない。絢爛豪華なシャンデリアは初めて見たからである。
「あの・・・・・・勇者様?」
さて、それでは国王類が存在する場所とはどこだろう。この建物内で生活しているならば扉のデカいところを片っ端から探していけば見つけられるのではないか。偉い人は高いところかデカい扉の奥にいると相場は決まっているのだ。
エナドリの空き缶と用済みのストローを可愛いリュックに仕舞う。
思い立ったが吉日。
「ちょっと権力者を脅迫してきますね!」
「えっ、え、えっ!? えっ!?!?」
顔面東大生が慌てる声を置いて出入り口らしい扉を蹴破った。
オキニの厚底で走り出す。目指すはなんか目立つ場所。途中で通りかかったメイドらしき人が三度見くらいしてくるのが分かる。後ろからワチャワチャとモブ達が追いかけてくるのも見えた。
しかし彼らにとっては不幸中の不幸、直進してすぐにどデカい扉を発見する。
「待って待って待って勇者様お願いだから待って」
「お邪魔あそばせ!」
「あああぁぁぁーーー!!!」
もちろん蹴破った。
後ろから悲鳴が聞こえてくるのなんて知らない。怒られるとすれば自分ではなく彼らだ。だから真正面にいた王冠を被ったおぢだけに目を向ける。
「おお、その珍妙な御姿・・・・・・貴女が勇者様であられるか? しかし、スキルの鑑定をしてからいらっしゃる予定になっていたはず」
「オープニングスキップしてきちゃったんで存じ上げねぇですわ。私が聞きたいのは2つだけですの。それが終わったら大人しくオープニングリプレイしますわ」
「おーぷにんぐ?」
周囲の兵士達がザワザワしながらもちょっとずつ取り囲んでくる。確保していいのか全員が悩んでいるようだ。けれど国王と思われるおぢが手を上げたことですごすごと下がっていった。
「私、帰れるの? 推しピが待っているんだけど! 推しには私がいなきゃダメなの!」
「おし?」
「あと、なんで私が呼ばれたの? あるいはどうして呼ばれたのが私なの? ちょっと殴って蹴って叩いて走れるだけのか弱いJKなのに!」
「だけ?」
オロオロとしつつも国王らしきおぢが傍にいた別のおぢにヒソヒソと話しかける。そのおぢは首を横に振った。国王おぢが顎に手をやっている。そろそろ蹴り飛ばす準備をしておいた方が良いかもしれない。
ところどころ言い訳じみていたものを要約すると、こういうことだった。
この世界は日本で言うところのファンタジー世界そのままで、魔法や魔物や禁術や生贄や物理攻撃や精神口撃が存在する。更に「魔王」という概念もあった。
そして、自分が召喚された理由はこの魔王というものにあるそうだ。
長年の敵対関係によって民が疲弊しているため、一刻も早く宿敵を打ち倒さなければならない。されどもこれを撃破するには女神の加護を受けた異世界人の協力が必須らしい。
それは純粋な実力差の話ではなく、女神の加護の象徴である「特殊技能」(いわゆるスキル)にある。魔法とは別だそう。
魔王は、特殊技能でしか倒せない。
「どうか我が国をお救いください、勇者様」
わざわざ王座から降りてきて頭を下げてくれた。しかし、残念ながらその頼みに対する返事はできない。
「で? 私はその魔王を倒せば帰れるの?」
黙った。それが答えだった。
少なくともこの国では元の世界に帰す力が無いのだろう。それが技術の問題なのかエネルギーの問題なのかまでは分からないが。
「申し訳ありません。例え魔王を討伐していただけずとも、我々は貴女様の生活を保証致します。今はまだ混乱もあるでしょうから、ひとまずは検査を受けてお休みください」
だが、この国に可能性が無いからと言ってそれ以外の全てに絶望する必要性はない。
あるじゃないか。人間以外の手段が。
「・・・・・・ゆ、勇者様・・・・・・これから、貴女様の特殊技能鑑定をさせていただきます・・・・・・」
顔面東大生がゆっくりとこっちに近づいてくる。確かに自分にあるかもしれないスキルは気になるが今はそれどころじゃない。
ぐっ、としゃがんで足に力を加えていく。
「勇者様? 待ってなんで? え? あの、勇者様?? 何するんです?? え???」
そして、勢いよく地面を蹴った。
そのまま全力で国王おぢに向かって突進する。されども側近おぢが間に割り込んだ。
だから、側近おぢもオソロっちでドロップキックをかましてあげた。
「国王陛下!!! む、謀反だ!!! 勇者様がご乱心だ!!!」
ワアワアと兵士達が集ってくる。乱心とは失礼な。理論を経たことによる平常運転である。
倒れたままの国王おぢと側近おぢを数回転がしてうつ伏せにさせる。「ワーッ」と兵士が悲鳴を上げたが誰も近寄って来ない。魔王に勝つ可能性のある人間に挑みたくはないのだろう。
それはそれとして側近おぢが目を開けないことが気がかりだ。ちゃんと確認したところ、単に気絶しているだけだと判明した。なので放っておく。
国王おぢの背中に足を乗せた。何が起こるか分からないからか、随分と大人しい。
自然と喉奥から笑い声が出てくる。
「要するに私が世界征服した方が早いってことっしょ! 目指せ最速RTA!」
人間が使えないなら魔王を使えばいいじゃない。
そんな時だった。
「止めろ! 止めてくれ!! 止めてください!!!」
運命と出会ったのは。
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