第38話 帝王


「なんだと?我に戦争をやめよと申すのか?」

 今俺たちは帝国の帝王の前に立っている。

「はい!私はこの目で転移魔法の使えるこのスズトと一緒に世界を見てきました」

「して、こちらが使えるものはあったか?」

「…次元が違いました」

「は?」

「私達の数倍先をこの地球は行っています!しかも広大な土地に私たちはバラバラに置かれたのです」

「ふっ、何を馬鹿なことを」

「し、仕方ない!スズト!頼む!」

「分かったよっと!じゃあ王様先ずは東京にご案内しますね」

「な、我は」

 

 そして1時間ほどの時が経った。


「も、戻ってきた!」

「王よ!大丈夫ですか!」

「ああ、あぁ、酷いことになってるな、ヒール」

 ジョセフやシアンはボコボコにされていた。

「くっ、王よ!」

「すまなかった、我は」

 と王は座ると頭を抱える。

「私も最初はそうでしたから」

 シアンが言うと、

「戦争なんて辞めだ!」

「そ、それは」

「皆に伝えよ!戦争はやめると!」

「は、はい!」

「外交官よ、これからは忙しくなると思え!」

「は、はい」

「ど、どういうことですか?」

「我々の常識は捨て去らなくてはならない」

「は?!」

「飛空挺よりも早く飛ぶ鉄の乗り物や、車と呼ばれる馬のいらない馬車、道も滑らかで、何処をとっても負けていた」

「そ、そんな」

 城に勤める人間が膝をつく、まぁ、あれだけ回れば嫌というほど分かるだろうな。

「スズトよ、地図をいただけないか?」

「どうぞ」

「ここに我らの国がある」

「…え?」

「もう帝国はない。あるのは帝都のみ」

「そ、それは?」

「そうだ、私達は戦う前に負けているのだ!」

 涙ながらに喋る帝王。

 そうだよな、自分の国が街一つになったらどうしようもないからな。

「まずはアメリカだな、こちらから出向く必要がある!どうすれば良いのじゃ?」

「そうですね、とりあえずは一番近い都市に相談すべきかと」

「そ、そうだな」

 ドミニカ共和国からアメリカのコネチカット州までほぼ直線に陸地ができているのでキューバなども陸地になっている。メキシコ湾はあるが、海流などまだ様々な問題が出てくるだろうが、まずは陸地だ。

 キューバに外交するよりもアメリカの方がいいだろう。となるとドミニカ共和国の上にある帝都に一番近いのはフロリダ州だな。

 日本に戻りアメリカのシカゴを経由してフロリダのオーランドまで来た。流石に疲れたがもう一回きてしまえば転移で動けるからな。

「よし。整ったぞ?」

 と帝国に戻ると外交官に会うと頭の硬そうな人だった。

「大丈夫か?」

「何がですか?」

「お前だよ、何を話すつもりかここで話せるだろ?」

「はい!私達帝国の国土を取り返すために…」

「おい!誰かおらぬのか!!」

 と帝王の言葉で呼び出されたのが、

「僕ですか?いやぁっはっはっは…」

 シアンだったのでまだいいだろう。

「行くぞ!」

「ほ、ほんとに!?」


 フロリダ州のマイアミの市長から話に行こうともうアポは取ってあるので急いでタクシーに乗る。

 市長に会うためにどんだけ苦労したか…

「まぁ王国の時と似たようなものだから心配するなよ」

「いやだなぁ、武器になるのがこれかぁ」

「じゃああとはごゆっくり!」

「待て!逃がさないからな!」

「ふざけるな!俺はこれでもしてやっただろ!」

「最後まで面倒見ろよ」

 と、扉が開くと、

「あはは、取っ組み合い中?」

 市長はまだ寛容だったようだ。


「と、とりあえずはそんなところですね」

「そうですか、私達に何か利点は?」

 ほら来た。

「そうですね、これは契約書です。サインをお願いできますか?」

「ふむ、…他言しないことですね、わかりました」

 サインをもらえればオッケーだ。

「はい!これで契約は成立ですので」

 とSPのことを教えると市長はにっこりと笑った。

「あとは?」

「そうですね。ダンジョン産のものがいくつかありますけどね」

「それは気になりますね」

 よし今度こそ、

「マジックバッグです」

「拝見しても?」

「どうぞ」

「ふむ、…!?」

「それは不思議なバッグですよね?」

「あはは、これは是が非にも欲しいものですね」

「あとは魔導書なども出ますね」

「魔導書ですか?」

「SPなしで魔法が使えるようになります」

「それは凄い」

 あと一押しか、

「あとは魔石」

「魔石エネルギーですね?」

「そうです」

 悪いけど市長には勝つよ?

「魔石はどの程度お持ちでしょうか?」

「そうですね、研究に困らない程度には」

「では、これはどうですか?」

 マジックボックスを出してその中に魔石を入れて行くのを見せると、市長の顔が満面の笑みに変わる。

「さてどうでしょうか?」

「私から州知事、大統領までつなげることをお約束しましょう」

「良かった、ありがとうございます」


「何だよ!僕はいらなかったじゃないか!」

「お前が今後ここで待機するんだよ!」

「は?俺が?何故だ?」

「すぐ動けるようにしておくためだろ?何のためにホテル用意したと思ってんだよ!」

「俺だけじゃ」

「俺も無理なの!用事があるって言ってるだろ!」

「わ、分かったよ、頑張ってみるよ…」

「ほれ、こっちの金だ!稼いで返せよ?」

「紙?」

「紙幣って言え!あとは俺のスマホの番号だ」

「分かった、僕から電話が来たらちゃんと取ってよ?」

「取れない時だってある!最悪の時だけ電話するようにしろよ?」

「分かったよ」

 頼りないが俺はまだやらなきゃならないことがあるからな。

「いい大人なんだから根性見せろよ?」

「うん」

「じゃーな?」

「分かったよ!またね!」

 俺は東京に転移した。

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