逆さの顔

小学生の時の記憶なので、曖昧な部分もあるが、今でも忘れられない話だ。


私は小学校が終わると、一旦家に帰り、近くの公園で夕暮れまでよく友達と遊んでいた。

住宅街にある普通の公園で、ブランコやジャングルジムなどの遊具、水飲み場があり、手入れのされた植栽が並んでいる。

親子連れや小学生、お年寄りなど、様々な年代の人が利用しており、雰囲気がいい場所だと子どもながらに感じていた。


友達と缶蹴りをしていた時の出来事だ。


公園の中心に置かれた缶が蹴り飛ばされ、オニがそれを戻す間に私は隠れる場所を探した。

目についたのが腰ほどの高さで、綺麗に立方体に剪定されたヒサカキの植栽だ。

枝を掻き分けて中に入った。

中は枝が開けており、薄暗かったが案外居心地は悪くなかった。

枝の隙間からオニの様子を伺う。


その時だった。

ガサッと音がしたかと思うと、右隣、植栽の上から逆さの顔が出てきた。

顔はオニの方向を見ている。

40代の男性のように見えた。

顎肉とほお肉が重力に負けて垂れている。

肌にはシミや中途半端に伸びた髭がある。

男は一点を見つめ、微動だにせずにいる。


外から植栽の中に頭を突っ込んでいるのだろう。

明らかに不審者だ。

私は缶蹴りのことなどどうでも良くなって、慌てて植栽を飛び出した。


オニの方に駆けていくと、私を見つけ、オニは缶を踏んだ。

しかし、私の泣いている姿に驚いたのか、隠れていた友達が駆け寄ってきた。

おじいさんやおばあさんも寄ってきたので、我に返った時は恥ずかしかった。


しかし、事情を説明すると、そんな人などいなかったという。


私は振り返って植栽を見た。

しかし私がいたはずの場所には、そもそも植栽などなかった。


私はどこに隠れていたのだろうか。

そしてあの男はなんだったのだろうか。

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