アナウンス

今でも忘れられない出来事だ。

仕事の帰り、電車に揺られていた。

平日の終電にも関わらず、電車は満員だった。

こんなに遅くまでご苦労様だ、などと思いつつ、椅子に座りながら目を閉じた。


気づくと、最寄り駅は次だ。

電車内は人がたくさん座っているのに静まり返っていて、ガタンガタンという音と、電車の車輪と線路が擦れ合う高音が響いていた。

アナウンスが始まる。

「まも…く◾️◾️で……出口は…側で……」

ノイズが混じっている。

思わず顔を上げた。

他の乗客も気付き、顔を上げて不思議そうな顔をしている。

アナウンスにノイズが混じることなんてあるのだろうか。

そう考えていると、最寄駅に到着した。

不気味だったので、早く降りてしまおうと思い、駆け足で出口へと向かった。

次の瞬間、


「ああああああああっ!」


男の叫び声が響き渡った。

まるで腹の底から絶叫しているような。

断末魔のような声だった。

明らかにアナウンスから発せられていた。


自分も含め、全員がビクッと反応した。

「今の何」

「大丈夫か」

「下りよう」

などと声が上がり始める。


逃げるように改札に向かった。


その声がなんだったのか、今でも分からない。

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