ドアスコープの向こう側
友達の家に泊まりに行った時の出来事だ。
大学生の時に知り合った私の友達の香織は、社会人になった今でも親交が深く、休みがあった日は一緒に出かけたりすることが多かった。
香織の家に遊びに行ったことがなかったため、「今度遊びに行っていい?」と聞くと、少し渋った表情をしながらも泊めてくれることになった。
私にも言えない何か事情があるのだろうか。
実は彼氏がいた、とか。
家がすごくボロい、とか。
しかし、そんな私の予想は覆された。
香織から「近くに着いたら教えて」と言われ、着いたのは、駅からすぐ出たところのタワーマンションだった。
こんなに立派なところに住んでること知られたらマウントになっちゃうよな、と納得しつつ、香織と合流した。
「こんな立派なとこに住んでるんだ、羨ましい」
私がそういうと香織が言った。
「家賃、めっちゃ安いんだよね」
思わず聞き返した。
「え、なんで?事故物件?」
香織は笑いながら言う。
「たぶん、でも1つだけ気をつけてれば大丈夫、あとで教えるね」
部屋に入り、上着を脱ぎ、買ってきた缶チューハイを冷蔵庫に入れる。
つまみをテーブルに並べ、缶ビールを開け、二人で乾杯した。
一口飲んだ後、香織が言った。
「あ、さっきの話なんだけどね、気をつけること」
私の緊張感が伝わったのか、香織が笑う。
「そんな気にしなくていいから!0時以降は玄関のドアを開けなければ大丈夫」
肩透かしを食らった気分だ。
鏡に幽霊が映るとか、ラップ現象が起きるとか、そういう類のものだと思っていたのに。
「0時以降に何か出るの?不審者?」
「まあ、とにかく出なければ大丈夫だから」
少し濁された感じもしたが、気にしないことにした。
ピーという電子音に起こされた。
どうやら二人とも寝落ちしてしまっていたらしい。
テレビにはカラーバーが映し出され、耳障りな音が響いている。
リモコンの電源ボタンを押し、テレビを消す。
尿意を感じたので、トイレに向かった。
便座に座ると頭が痛くなった。
飲み過ぎたのだ。
昨晩は飲み過ぎな、そう思っていると、トイレの外から音が聞こえた。
カリッ…カリッ…
香織が起きたのかと思ったのだが、トイレを出ても、リビングの香織は眠ったままだ。
耳を澄ませる。
カリッ…カリッ…
まだ、音が聞こえる。
廊下からその音は聞こえていた。
その方向に向かうと、その音はドアからなっていることが分かった。
そこで昨晩、香織から言われたことを思い出す。
「深夜0時以降、ドアを開けてはいけない」
時計を見ると3時すぎだった。
明らかにドアを開けてはいけない時間である。
しかしどうしても気になり、音を立てないようにドアに近づき、ドアスコープを覗いた。
レンズの向こう側は真っ暗な闇だった。
よく見ると、闇だと思っていたものは人の目だった。
激しい動悸が襲い、思わず尻餅をついてしまった。
ドアの向こうの「人」に気付かれてしまっただろうか。
そう思うと、後ろに香織が立っていた。
「大丈夫だよ、あれは見てるだけだから」
「たまに音も立てるけど」
「そろそろ消えることだと思うよ」
そう言うと、香織は笑った。
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