トンネルより来たりしもの
友人たちと心霊スポットにドライブに行った時のことだ。
大学4年生、最後の夏休みを楽しもうと同期で仲が良かった4人組で心霊スポットに行こうという話になった。
4人の中で車を持っているのは小林くんだけで、そういう「幽霊」が苦手な小林はたいそう嫌がった。
ごねる小林を前にしておれと高橋と井上の3人は「どこの心霊スポットに行こうか」と冷やかしも交えて話し合った。
行き先として選定されたのは町境の旧国道にあるトンネルだ。
現在は、新しい国道がつくられたため、普段は誰もその道を使っていないが、新国道の道脇に鍵のかかっていないフェンスがあり、そこから旧国道には誰でも入ることが出来る。
旧国道は閉鎖されてから数十年が経っており、まるで獣道のような道路を10分ほど歩くと、小さなトンネルがある。
そこが◾️◾️トンネルだ。
地元の若者の間では、「中から声が聞こえる」「白装束の男に追いかけられた」「車のエンジンがつかない」などの噂が多い。
0時まで近所のファミレスで暇を潰し、みんなで車に乗り込んだ。
あんなに嫌がっていた小林だったが、井上が
「帰りにソープに連れてってやる」
と言ってから、なんだか乗り気になった気がする。
高橋は
「パチンコで勝ったからって調子のんな、おれも連れてけ」
とおこぼれを欲している。
その後も、バイト先の愚痴や、大学の可愛い女子の話、パチンコ、風俗、美味いラーメン屋の話題で盛り上がった。
そんな話をしているうちに、旧国道の入り口に着いた。
車を降りると辺りは真っ暗で、熱気と湿気が肌にまとわりつく。
噂のフェンスは割と新めの銀色の金網で、確かに錠はしていなかった。
押すとギイと鳴りながら開いた。
向こう側は真っ暗だ。
持ってきた懐中電灯をつける。
スポットライトを照らされる形になった道路は、長く放置されていたようで、辛うじて車の轍となる部分が見えているものの、ほとんど草で覆われていた。
肝試しというよりは探検といった按配だ。
幽霊よりも熊が出るのではないかという恐怖が上回り、大声を出しながら歩いた。
数分歩くと、トンネルに着いた。
しかし、トンネルの入り口は、工事現場で見るようなオレンジ色のフェンスで厳重に閉ざされており、中に入ることはできなかった。
特に心霊現象らしきものには遭遇せず、肩透かしを食らったおれたちは、写真だけ撮って帰ることにした。
小林と井上と高橋がトンネルを背にしておれが3人を撮る。
スマホのフラッシュが瞬き、カシャと音がなる。
同時に、3人の後方から
「うぉぉぉぉぉ!」
と男の絶叫が聞こえた。
閉ざされているはずの内部からだ。
その声は、最初は遠くにあったのだが、だんだんと近づいてくるようにも思えた。
声が聞こえていたのは自分だけではなく、3人も同時にビクッと驚き、顔を合わせた瞬間、4人とも急いで車を停めた方向に走り出した。
車に乗り、小林が大急ぎでエンジンをかける。
おれと井上と高橋は、さっきの声の持ち主が追ってきて、今にも闇の中から現れるのではないか、という恐怖で、小林を急かした。
無事、その場から立ち去ることができ、コンビニの明かりが見えた時はみんなで安堵した。
「いやぁ、マジで怖かったな」
高橋が興奮気味で話す。
「もう二度と行かねえわ」
と小林がキレ気味で吐き捨てた。
怖い体験はしたものの、無事帰ってきてしまえば、いい思い出となるのかもしれない。
そう思った時、助手席に座っていた井上がつぶやいた。
「なんかあのおっさん、変な人かな」
井上が指を差した先には、おそらく40代であろう緑色のジャンパーを着た男が立っていた。
自分たちと同じ方向を向いているので顔は見えなかった。
奇妙なのは、何もない場所でただ立っているだけという点だ。
通りすぎる時に顔を見たかったが、なぜか、見ることはできなかった。
高橋が
「立ちションでもしてたんじゃねえか」
と言う。
納得しようとしたが、どこかが引っ掛かる。
すると、1分もしないうちに小林が
「おい、あいつって…」
と言った。
おれたちはそいつを見ると背筋に冷たいものが流れる感覚を覚えた。
さっき見た男と全く同じ容姿の男が立っていたのだ。
しかも、また顔は見えない。
追い越したはずの男がまた目の前に現れるには、車よりも早く動かなければならない。
そんなの無理だ。
車内に沈黙が流れる。
その後も、大体500mごとにその男は現れた。
怯えた小林は車の速度を上げる。
おれたちはやめろとも言えず、ただただ男が再び現れないことを祈った。
そうすると、ある地点から男の姿は見えなくなった。
スピードは130キロは出ていたと思う。
あの日以降、心霊スポットに行こうと誰も言わなくなった。
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