第12話 サファイアに囚われて
カイルとミラジェーンは手を繋いだまま中庭まで来た。
追い返されると思っていたミラジェーンは、なぜここにまだいるのかが分からずにカイルに手を取られるがままになっていた。騎士用の訓練場と言えども、中庭には様々な植物が植えられていて美しく整備されている。
カイルもいつもは中庭は通り過ぎる程度で気にもしていなかったが、こんな風に静かで良い庭園があって良かったとホッとしていた、ここなら少しは落ち着いて話せると思ったからだ。
ミラジェーンと向かい合い一息つく…、しかし彼女を見た途端にカイルの心の中は嵐の中に投げ込まれた様に色々な思いが吹き荒れ、理性やら思惑やらが吹き飛んでいっている。
今日のミラジェーンのことを見て自分の想像力の乏しさに気付かされた、いや…誰が想像できるだろうか?
目の前にいるミラジェーンは完璧だ、こんなに美しいものは見たことがない…世の中のすべてのものが霞んでしまう。
(あぁ…、こんな美しいものを自分だけのものにしたい…誰の目にも触れないように腕の中にしまって…。閉じ込めて…、もう壊れることのない様に…。)
「旦那様…良く私が分かりましたわね、このドレスに見覚えが?」
ミラジェーンに話しかけられカイルは現実に戻される。
「フッ…もちろんドレスにも見覚えがあるけれど…俺が我が愛しき妻が分からぬ愚か者だと?」
――ゾクゾク…
冷たい…ミラジェーンの好きな冷たい視線がやっと向けられる。
「…いえ…。マリが張り切ってしまっていつもと違うようになりましたので…自分ではないようで少し戸惑ってます…。なんだか恥ずかしくて…、でも旦那様がすぐに気づかれたことに驚きましたわ。」
ミラジェーンの恥じらった顔…頬が赤くはにかんだ笑顔…。
「…ミラジェーン…、ミラ…。君はいつも僕の心を乱す…出会った頃からずっと…」
「?…え…⁈」
カイルはミラジェーンの両手を取り少し寂しい様な笑顔を見せる。これはカイルの観念したという顔だ。
「ミラ、僕の麗しの妻よ…君は覚えてはいない様だが…。」
カイルは困惑しているミラを見ながら優しい笑顔で話し始める。
「君はいつもアルバート殿下を見ていたからね、僕は彼のただの遊び友達でお守り役…護衛なのに、いつも君ばかり見ていたよ。会った頃はこんな感じだったのに、騎士学校から出て護衛になると君は変わっていた…悪役令嬢なんて呼ばれて…ま、僕はそんなこと微塵と思わなかったけどね。」
ミラは思い出していた、そう言えば…幼い頃王城で子供たちが集まる会に金髪の少年がいたような…お兄様とよく話していた…いえ、私もいつも話しかけられていた…
いつも優しく笑いかけてくれた…。婚約してしばらくして殿下の護衛にはいつも金髪の騎士が…。
彼がカイル…⁈
「ミラ、僕は出会った時からずっと君のことが好きだよ。」
時間が止まったように青いサファイアの様な瞳は真っすぐとミラを見つめる、ミラはもう囚われている。
この瞳から逃れることは出来ないと本能が教えてくれている…でも嫌ではない…これは何?胸が苦しい…締め付けられる、痛い様な、違和感が全身を駆け巡る…
―――キュウ…
「君がアルバートの近くにいるのが嫌だった…彼の心ない言葉が君に向けられるのが嫌だった…。」
カイルは苦しそうに顔を歪める、でもサファイアの瞳はミラを離さない。
ミラは胸だけではなく、今やお腹の奥底、指先からつま先まで締め付けられる感覚に襲われる…
―――キューン…!
「でも、知ってるんだ…君が好んでそうしていたことを…。」
サファイアの瞳は一瞬にして周囲に冷気を漂わす様に鋭くなりミラジェーンを突き刺す。
――ゾクゾク…!!!
ミラは心臓を掴まれたような感覚に陥る…鼓動が早まる…全身が何かに巻き付かれたような…足元がふらついて立っているのもやっとだ。
頭の中も体の中もぐちゃぐちゃだ。
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