第11話 私を冷たく追い払って…
数日後、ミラジェーンの元に仕立て屋から数着のドレスが届いた。それは店で見て気に入ってサイズだけ調整し終わった数着だ、後は型から起こしていて作ってるものがまだ数着ある。夜会用のドレスなども時間がかかるのでまだだが、どれも素晴らしくミラジェーンに似合ったものを選んだ。
試しに届いた一着を着てみることにした、マリはそのドレスに合わせ髪型と化粧をしていく。仕立て屋に行った時からマリは楽しそうだったが、今マリは興奮状態と言ってもいい。
「奥様、素敵です!奥様のイメージにピッタリですわ!まるで幼い頃の天使の様!!ああ…なんて素敵なの!」
「ありがとう…でも…なんだか恥ずかしいわ…。」
「そんな!恥ずかしいなんて…こんなに素敵なのに!
――そうだわ!旦那様に見せに行きましょう!!こんな素敵な奥様を見たら…ああ、もう!じっとしていられないわ!!」
「え⁈…そんなことは…急に…。旦那様のご迷惑になるわ。」
「いいえ!そんなことはございません、旦那様はお喜びになりますよ。
そうだ、せっかくだから差し入れを持って行きましょう!厨房で何か作ってもらわないと!!」
「ちょ…ちょっと!マリ…」
ミラジェーンはマリの暴走を止めることは出来なかった…、今日は素敵と言う言葉を何回聞いただろう…。
ミラジェーンは改めて鏡に映る自分を眺めてみる。
マリに言われて思い出したけど、そう言えばこういう感じのドレスが好きだったわ。
こんな清楚なドレスを着た自分を見てカイルはどう思うかしら?
突然訪問したら迷惑なだけだわ、冷たく追い返されるに違いない…。
きっとあの冷たい目で睨まれて…。
――ゾクゾク…
数時間後、ミラジェーンは沢山のマフィンを持って第一騎士団の訓練場にいた。
ここに来るのは初めてで勝手が良く分からない…、マリと一緒に後ろの方で様子を見ることにした。今日はちょうど一般の見学が許されている日の様だった、キャーキャーと黄色い声援があちらこちらで上がっている。他のご令嬢からカイルの名が出るのを聞き、そばで聞き耳を立てる。
「見て!カイル様よ!!前の近衛の制服も素敵でしたけど、第一騎士団の制服もなんてお似合いなのかしら!」
「本当に!素敵だわ~…しかもあの若さで団長様!実力もおありなんて。」
「なぜ結婚なんて…あんなお方と…。」
「そうよね……、…。」
何だか良く聞こえなかったが、旦那様はなかなかの人気者だ。
そうだろう、あの顔に身分…それに、なんて美しく剣を振るうのだろう。
初めて見たカイルの姿に釘付けになってしまう…あれが私の旦那様?頭がぼーっとしてくる、なんだろう?このフワフワした感じは…?
(あぁ…、天使様が微笑んでらっしゃる、こちらに向かって…)
って!カイルがこちらに気付いて駆け寄って来る!
満面の笑みで向かって来るので、ミラジェーンとマリの前にいた令嬢たちはキャーッと歓声を上げ大騒ぎだ。
「ミラジェーン!!!」
その場にいた観衆は目を丸くしながらカイルの向かう先…後方に目を向ける。
そこにいたのは、見たことのない美しい貴婦人―――
豪華なレースとフリルがついた淡いピンク色のドレスに身を包み、それに合わせレースをふんだんに使った帽子は顎下に大きなリボンでとめてある。
その帽子からこぼれる見事なウエーブの金髪、淡いピンク色の頬、ふっくらした唇、大きな緑色の瞳。
…え⁈誰???…
と、皆の目が言っている。
迫りくる天使、皆の目は一斉にこちらに向いている。ミラジェーンは動けない。
マリだけはなぜか冷静で、自信満々な顔でこう言っている。
「さすが旦那様です、一目で奥様と分かるとは!」
「え⁈何それ???」
自分でも驚く変わりようなのに何故カイルはすぐに分かったのだろう?
なんだそれは⁈とか…なぜここに?とか、ミラジェーンが期待していた冷たい反応はそこにはない、今までの笑顔とは全く違う笑顔のカイルはあっという間にミラジェーンの手を握っていた。
「ミラジェーン!僕の美しい奥方、今日はどうしたのですか?」
(僕⁈…あ、そうか…これは演技ね!皆の前だものね、それならこちらも乗ってやろうじゃないの!)
「旦那様、今日は新しいドレスが届きましたの…旦那様に見せたくて…来てしまいました。鍛錬の邪魔をしてしまい…ご迷惑ではありませんか?」
「君が迷惑になるなんてことはないよ、もっと良く見せて。」
ミラジェーンは可憐にくるっと回って見せた、まるで大輪のピンク色の花がフワッと風に踊らされているかの様に。
(少し大げさすぎたかしら?でも旦那様にはこうでもしないと。ほら、早く追い返してください!)
カイルも、その場にいた騎士達も、見学の者達も今やこの貴婦人に目が釘付けだ、
誰もこの貴婦人が悪役令嬢と名高いミラジェーンだとは思わない。集まる視線とヒソヒソと始まる話し声にミラジェーンは少しぞくっとする。
カイルはミラジェーンの手を取りその場を離れようとする、ミラジェーンはこのままつまみ出されると思い胸躍らせているが、皆はこの仲良く手を取り合っている二人の美しさに見とれている。
「はぁ~…なんとお美しい…」
「え⁈誰だあれは?」
「あれが例の愛人か…⁈」
「ミラジェーンと呼んでいたが…???」
――コソコソ…訓練していた騎士達でさえも手を止め話し始めた。
そんな中カイルは嬉しそうに騎士達に向かって言う。
「みんな!聞いてもらって良いか? 麗しの奥方が訪ねて来てくれたので私は少し休憩を取る。」
しんと静まり返っているところにミラジェーンが続ける。
「皆様、厳しい鍛錬お疲れ様です。日頃の感謝を込めまして今日は軽い挨拶に参りました、お手を止めさせてしまい申し訳ありません…、あの…差し入れをお持ちしましたので召し上がって下さいね。」
まだ静まり返っている…ミラジェーンはバツが悪そうにカイルにそっと聞く。
「…すみません…ご迷惑でしたわね…」
「いいや、皆喜んでいるよ。さ、行こうか。」
「では、皆さま…御機嫌よう。」
ミラジェーンは颯爽と挨拶をする。
(うまく追い払われている!突然来て、鍛錬の邪魔をする妻だもの、騎士の皆さんも呆れているわ!でもカイルの冷たさがない様な?こんなに嬉しそうな顔、すごい演技力だわ。)
カイルはミラジェーンの手を取りまだ混乱の中にある人々を後にする、この後の騎士達の鍛錬が終了したことは言うまでもない。
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