第7話 夢の様な冷たい結婚

 ミラジェーンは何事もなく学園を卒業し、今カイルの妻になるべくウエディングドレスを身にまとい教会にいた。

 

 (こんな素敵なウエディングドレスを着てもまだ実感が湧かないわね…。

結局あの男とはあまり顔を合わせていないし…忙しいとは言え…イヤイヤ、あの男の目的は出世、結婚が決まればどうでもいいってことね。)


 …などど考えているとカイルがやってきた、新たに任に着く第一騎士団団長の正装。初めて見るその姿につい見とれてしまう。


「ミラジェーン、ご機嫌いかがですか? なんて美しい…。」

「…あなたも…美しいですわ。」


 カイルは彼女が頬をほんのり赤くしたのを見逃さなかった。成功だ!!

以前の近衛騎士の制服は白を基調としていて、自分が着ると天使の騎士様などと呼ばれる始末…彼女は天使などに興味はないのだ!

 その点、第一騎士団の制服は濃紺を基調としていて、これを着て冷たい表情をすればこの顔だってそれなりに悪く見えるのではないか…?自分の考える氷の騎士に近くなるのでは?これで冷たい視線を送れば…彼女に気にかけてもらえるかもしれない。


 ただそんな理由だけで第一騎士団を選んだ訳ではないが…。




 

 初夜のためにミラジェーン付きのメイド達はバラの花びらを浮かべた風呂を用意していた、それはミラジェーンの好きな色の紫のバラ…。


「私ね、紫色のバラが一番好きよ。」

「はい、旦那様から聞いておりますので。」

「…そうなのね…。」


(旦那様…か、本当に結婚してしまったのだわ…。

それにしても紫のバラが好きなのを知ってるのね、アルバートだって知らなかったのに…???)


 ミラジェーンはメイド達によってピカピカに磨き上げられ、バラの香りの肌はふっくら、髪の毛は何分もブラッシングされツヤツヤしている。

メイド達が下がり、部屋に一人にされるとソワソワして落ち着かない。


(ふぅー…、あの方…来るのかしら? もう結婚したらどうでも良いんじゃ?このまま来なかったら明日はメイド達からの視線が痛そうね、あら…それはそれで良いかも!

私たちが頑張ったのに水の泡なんて!!!っていう視線、いいわ…)


 色々な想像をしながらなかなか来ないカイルの今日の姿を思い出す、あの冷たい表情にあの制服はしっくりときていた、あの…私を見つめる瞳…ゾクゾクした…。


――コンコン


(えーーーーー⁈来た!!)


「はい、どうぞ。」


精一杯に平常心を装いカイルを部屋に招き入れる。


「まだ起きていたんですね。」

「はい、…初夜ですから…一応。」


カイルはツカツカとミラジェーンの方にやって来る。


「言っておきますが…、私があなたを抱くことはありません。」


――ゾクゾク…

なんて酷い! 初夜にしてこの言葉…、寝室で遅くまで待っていた新妻に対して…!

ミラジェーンは震え始める…もちろんでだ。


「あなたには自由にしてもらって構わない、お互いに気にはならないだろう?

家で何をしようが、何を買おうが、誰と付き合おうが構わない。

ただ、もし他の男との子供が出来たらあなたにはどこか他で暮らしてもらう。」

「それは…離縁ということ…ですか…?」

「う~ん…、どうだろうね?

あなたはすでに離婚破棄されて、それで離縁となると…。僕もあなたにはできるだけ幸せに暮らしてもらいたいので。」


 ひどく冷たい声で放たれる言葉にもう失神しそうだ…幸せに暮らしてもらいたい…ってなんなの? こんなに酷い仕打ちをしながらこんなことが言えるなんて…一体?

目の笑っていない笑顔が向けられて足がふらつく。


「気分が悪そうだ…もうベッドに横になるといい、私はソファーで寝るから。」


ミラジェーンはふらふらとベッドに倒れこんだ。



 カイルはソファーに横になるがもちろん眠れるはずがない。

ミラジェーンを見ると疲れてもう眠っている、あんなに酷いことを言ったのに気持ちよさそうに眠ってるということはあれで良かったのか。少々やり過ぎたかとも思ったが…。

 

 彼女のウエディングドレス姿は美しかった。色々と冷たい言葉を考えていたが彼女を見た途端すべて吹っ飛んでしまった、なので初夜は失敗しまいと練習していたら寝室へ来るのが遅くなってしまった。

寝室の扉が開いて彼女を見た瞬間危うく理性が吹き飛びそうになった…何度も何度も頭の中で練習した言葉を絞り出した、ミラジェーンの好きな冷たい目をして。


 化粧を落とし、長くウエーブのかかった金髪を垂らし、可愛らしい寝間着、まるで幼い頃のミラジェーンだ!

あの頬に触れたい…

あの髪の毛の触り指に絡ませ…

あのバラの香りに中に沈んで…


 あぁ…、おかしくなりそうだ…こんなのは耐えられない、明日からはこの寝室に来るのは止めよう。自分を止める自信はない。



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