第6話 秘密と嗜好

「カイル殿ではないか!あぁ、今はカイル第一騎士団団長だな!」


 結婚式の打ち合わせをしに公爵邸を訪れたが、今日はお茶をする暇もなく早々と帰ろうとしている所にミラジェーンの兄マイルスに鉢合わせた。

彼女にだって少ししか会えていないというのに…いや、会えない方がより計画を盛り上げるから良しとするか。


「もう帰るのか?ミラとは?」

「今日はすぐに戻らなければならなくてな…。彼女とは顔を合わせたくらいだ。」

「…忙しいな、団長様は。ミラも寂しがってしまうぞ。」


「そうなると良いのだが…。」


二人は歩きながら話をする、幼馴染である二人はお互いのことを良く知っている。


「それにしても、ついに俺の義弟になるか…。あの馬鹿と切れてさっぱりしたが…

お前の強運には驚くばかりだよ、まぁ、強運ばかりじゃないんだろうがな。」


「…手に入らなくても想像する自由はあるからな。」

「ミラのあの外見もその調子で頼むよ、あれは酷いからな…お前も昔の様な可愛らしいミラが良いんだろう?

一人…昔からのミラ付きのメイドが同じことをよく言っている、使えると思うが?」

「フッ…取り戻すさ…どんだけ長く待ったと思ってる?」

「ミラが知ったら…フフッ、それはそれでうまいくか…。」



 記憶の中のミラジェーンは可愛らしい顔に合う髪型に服装をしていた、天使の様な少女はたっぷりのレース、リボン、淡い色を好んでいた。

ところが騎士学校を卒業して久しぶりに会ったミラジェーンは別人だった。


 婚約者に小言を言われる為に、胸元の大きく開いた色の濃いドレスを着るようになり、胸元には大きめの宝石がついたネックレス…。そして髪の毛をサイドから無理やり引っ張り結い上げ大きな髪飾りを付け、ウエーブの髪は見事な縦ロール。それに合わせメイクも濃く、引っ張り上げた髪の毛によって大きな目は吊り上がり、そこに意地悪そうな笑みを浮かべればアルバートでなくても何か言いたくもなる。


 いつしかあの可愛らしい少女はなぜか悪役令嬢と呼ばれるようになっていた。

最初は彼女が変わってしまい落胆と混乱でどうしようもなくなり…彼女の近くにいたいと思い入った近衛も辞めようかとも考えた、しかしあの日彼女の本質を見てから変わった。


 アルバートを操る為にミラジェーンが作り上げた馬鹿馬鹿しい役。


 彼女が幸せならそれでいいと、近くで見守ろうと誓った。

しかし、アルバートがマーガレットという男爵令嬢と仲良くなってからは事情が変わった。ミラジェーンは第二王太子殿下の婚約者でありあの見た目もあって皆遠巻きに見ていたが、あの男爵令嬢だけは違った、何やら周りをウロチョロしていたのでミラジェーンがいないときに王子に鉢合わせるように細工してみた。まぁ、あの王子だ…取り入るのは簡単だと誰でもすぐ分かる。何かしでかすとは思っていたが、まさかあんな風に婚約破棄をするとは…なんと愚かな。


 婚約破棄はこちらにとっては好都合だった、ありとあらゆる事態を想定して勝手に準備していつ何が起こってもいいようにした甲斐があった…例えば、王子からかっさらって逃亡するために逃亡ルートも準備してある。自分でも怖いくらいだ…。


 問題はただ一つ、ミラジェーンの興味がどうしても自分に向かないという点だった。

自分のこの顔が嫌になる…もっとこう…アルバートみたいな意地悪そうな?キツイ顔だったらと何度思ったことか。これは視線や発声の仕方を変える練習を重ねることによって改善されつつある。実践してみてまだまだではあるが効果は実感している。


 ミラジェーンを翻弄する為に俺が作り上げた愛のない氷の騎士の役。


 そして、今日新たにマイルスから聞いた情報。これはミラジェーンを元に戻すという次の計画に役に立つ…


「是非ともそのメイドはこちらに欲しいな。」

「怖い顔だなぁ! アハハ、ミラ好みだ!!」

「まったく…お前が彼女をああしたくせに!それでこんなに苦労してるんだぞ!」

「いやあ、俺はただ優しいだけの男はダメだぞって言ってただけだぞ、少し厳しくしすぎたのか?ミラが勘違い?まぁ…嗜好の問題だな。」


「分かってるさ。」

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