第4話 天使とブラコン少女の出会い
ふー…っと大きな溜息をつきカイルは天を仰いだ。
本当にうまくいったのか? 彼女が結婚を承諾してくれた!!!
長く望んだ…叶うことがないと知っていながら…。
諦めていた彼女を手に入れることができるなんて…まだ夢の中にいるみたいだ。
自然に顔がにやける、氷の騎士などここにはいない。
カイルは幼い頃からアルバートの遊び相手の一人として度々王城に来ていた。
国王はアルバートの我儘さを心配して、幼い頃から同じ年頃の子供たちを集めて遊ばせていた。まぁ、それがますますアルバートを我儘にしていったのだが…。
ある日、カイルの人生を変える出来事が起こる――ミラジェーンとの出会いだ。
ミラジェーンは人見知りなのか、中々皆の輪に入ることが出来ないでいた。
「こんにちは。君はみんなと遊ばないの?」
「…こんにちは…。」
「話すのははずかしい?」
「…お兄様がだれとも話すな…と。」
「え、そうなのか…、ごめんね、僕が話しかけてお兄さんに怒られる?」
「…いえ、大丈夫です。お兄様はいま王子様と話しているので。」
見ると、ミラジェーンの兄とアルバートが話している。
ミラジェーンの兄マイルスとカイルは2つ上で貴族のしがらみに既に巻き込まれていた。つまりは王子に取り入るために親に送られて来ている。
どうにか王太子殿下の婚約者の座が欲しいアントワース公爵がマイルスに命じ、ミラジェーンを王子に近づけようと奮起しているのだ。
「ミラジェーン!こちらへ!」
「あ、お兄様が呼んでいますので…、失礼します。」
「…あぁ、では。」
兄に呼ばれたミラジェーンはカイルに会釈すると足取りも軽く走っていく。
「ミラジェーン!走ってはダメではないか!!」
「…申し訳ありません、お兄様…。」
「こちらが君の妹君か、もう少し作法を学ぶべきだな。」
「申し訳ございません。良く聞かせます。」
ミラジェーンは下を向いて恥ずかしそうにしている、しばらく話をしてアルバートが去っていく。
そしてカイルは見てしまったのだ、彼女がフワッと花のように笑ったのを…アルバートが去った後にその背中に向けるような笑顔、その健気な笑顔…。
カイルは幼い頃から天使のように美しく、大人からも女の子からもチヤホヤされていた、そんな自分が話しかけても笑顔を見せない彼女があんな風に笑うのか…彼女はただ王子に恋しているのか、それとも既に自分の立場を理解して振舞っているのか?
彼女のことが気になって目が離せなくなっていた。
ミラジェーンは可愛らしい少女だった、緑色の瞳を持つ大きな目、通った鼻筋、ふっくらとした唇、ウェーブのかかった金色の髪。あどけなさを残しつつ完璧と言って良いほどの容姿だ。何度か見かけることがあったが相変わらず笑顔を見せない…。
笑顔を見せるのは王子の前だけだ、カイルもあの笑顔が欲しくて何度か話しかけてみたりしたが、避けられているようにさえも感じるようになり彼女に近づくのは止めた。
ミラジェーンがアルバートの婚約者候補から婚約者に決まった時の気持ちは忘れない、もちろん伯爵家の嫡男ではないカイルと格上の公爵家の娘のミラジェーンがどうにかなることはない、しかし、アルバートはすでにミラジェーンをないがしろにしているではないか!それなのに自分は何も出来ないなんて…。歯がゆくて悔しくて…もう二人のことを見るのもつらかった…。
騎士学校に入ろうと思ったのもこの頃だった、自分を鍛えるんだ、ミラジェーンを守れるように。
ミラジェーンは兄のことが大好きだった、少し親馬鹿な父に代わって厳しくしていたのが兄のマイルスだった。家のことで忙しい兄はあまりミラジェーンに構ってくれない、でも王子との茶会などがあるときは兄がいつも一緒に行ってくれるのだ。
マイルスがいるから好きじゃない場所にも来られる、他の子などどうでも良かった。
(お兄様…また王子様とお話してるわ。私はお兄様とだけお話ししたいのに…。
また少し話せば良いのよね、本当に面倒だわ…早く終わらせたい。)
王子様と話す時間が終わると嬉しくって、いつも顔が自然ににやけてしまう。
王子様がいなくなると、お兄様に色々と言われるのだ…なぜああしなかった?もっとこうしなさい!とか…いつもは構ってくれないお兄様があれやこれや構ってくれるのがうれしい!
ただあまり良い子でいるとお兄様は構ってくれない、なら良い子でいなければいい。
もっと考えるんだ、どうやったらお兄様ともっとお話しが出来るかを、そして…
どうすればもっと叱ってくれるのかを!!
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