第2話 女王様?修道女?
たった今婚約破棄されたミラジェーン・アントワース公爵令嬢は、この馬鹿げた茶番の会場を後にしようと急いでいた。いや、途中までは馬鹿馬鹿しい茶番だったのだ…しかし、心優しい男爵令嬢によって事態は一転した。
今や、ミラジェーンにとっての地獄――愛のある修道院に送られるかもしれないという危機に見舞われていた。
混乱する会場から急ぎ出ようと歩いていくと後ろから突然呼び止められる。
「失礼ながら…!」
もう!何なのよっ!! この忙しい時に、早く帰りたいのに!!
振り向くとそこには片膝をつく騎士…、えっ⁈
「…あなたは…???」
「恐れながら…あなた様に名を告げることをお許しください。
私、近衛騎士副団長カイル・レンブラントと申します。」
「…で、近衛騎士副団長様、私に何の用が?」
ま、まさか私はもう捕まってしまうの⁈ …い、いいえ…国王殿下の許可なしにアルバートが動けるはずないわ…、では…なんなの?これは…。
「私、カイル・レンブラント―――ミラジェーン・アントワース公爵令嬢に求婚したく声をかけた次第です。」
「…はっっ⁈」
婚約破棄一転…求婚されるこの状況に頭が追いつかない。
しかも今この目の前にいる知らない騎士…。
金髪碧眼の整った美しい顔、まるで天使のような顔立ちの騎士様。近衛騎士の白を基調とした制服がやけに似合っていて眩しい。
それにしても、こんな状況で悪役令嬢と名高い私に求婚しようとは…、何を考えているのかしら?
もしやこれは!!…厄介なやからね!
ミラジェーンの意地悪そうな見た目、キツイ態度を好むある種の者達のことは知っている…。
でも、ミラジェーンは女王様にはなんてなりたくないのだ。
「…私、しばらくはそういうことは考えたくありませんの…。
本日はこれで… もし何かございましたら公爵家の方へ…。」
ミラジェーンはこう言うしかなかった、お手上げだ。頭痛がしてきた。
ミラジェーンがキツイ目で男を見ると、男はニコっと笑う。
あぁ…、逆効果だったのかしら?喜ばせてしまった??いつもは反対側だから…さじ加減が難しいわね…。
そんなことを悶々と考えていると騎士は立ち上がりミラジェーンの手を取るべく目の前に手を差し出してきた。
ミラジェーンはその流れるような仕草に思わず答えてしまう、すると騎士様は彼女の手を握りしめたかと思うとぐっと彼女を引き寄せ耳元で囁く。
「あぁ、愛なんてものは期待しないでくださいね。
私はただ、王子に捨てられた令嬢を助けるという役が欲しいだけなので…。」
はっっ⁈
そして騎士様はミラジェーンの手の甲そっとキスした。
その目は氷のように青く透き通っていて冷たい、声もとてつもなく冷ややかだ!
――ゾクゾク…。
こんなにも冷たい視線は初めてだ、耳元で言われた冷たい言葉にも気が遠のく…。足がガクガクと震え力が抜けそうになる。
「おっと、大丈夫ですか?」
そっと腰に手を回されて益々混乱する。頭が真っ白になるとはこういうことを言うのだろうか?
「では、考えてみてください。私の妻になるか…。」
天使の顔でニッコリ微笑む、なんて眩しくて残酷な笑顔なんだろう。
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