悪役令嬢Mと天使の顔した冷血騎士様

篠キニコ

第1話 婚約破棄!なんて素敵な響き!!

 「ミラジェーン・アントワース!今日ここで婚約破棄を言い渡す!!」


 ストゥルク王国、第二王太子アルバート・ストゥルクは、婚約者の…いや、婚約者のミラジェーン・アントワース公爵令嬢を睨みつけ、自らの17回目の誕生祭が行われている王城の大広間で、大勢の貴族が集う中、大声を張り上げて言い放った。


 冷たい眼差しでミラジェーンを睨んでいるが、ミラジェーンも負けてはいない。

吊り上がり気味の目をさらに細めて王子を睨みつけている。怒りを押し殺し口元を隠していた扇子をパチンッと閉じる。その音が静まり返った会場に響き渡る。


「そのご決断に了承は得ておいでなのですか?」


「…ムム…、お前との婚約など…!もう我慢ならん…!」


 歯切れが悪いわね…、全く…わたくしの誘導がなければこんなにも弱いなんて。

それにしても婚約破棄なんてそう簡単にはできないのよ、どうでるのかしら?

マーガレット様?

――マーガレット・シュナイツ男爵令嬢、私たちの通う学院でのご学友。ここ2・3カ月の間にアルバート殿下と親しくされている。そして、私の悪役令嬢という立場を確固たるものにした令嬢だ。

 



 ミラジェーンはアルバートのことが大好きだった。

厳密にいえば、アルバートから発せられる冷たくて酷い言葉、冷たい態度、見下すような目つきが大好きだった。あのゾクゾクと全身を高揚させるアルバートの酷い仕打ちを愛していると言っても過言ではなかった。 


 幼い頃婚約をした二人の間には、特に恋愛感情もなかった。

アルバートは甘やかされ育ち感情を表に出しやすい。すぐにかっとなってはミラジェーンをののしっていた。ミラジェーンの方はいつ頃からかそのキツイ言葉に興奮を覚えるようになっていた、そして単純な彼を言葉巧みに誘導して自分が欲するキツイ言葉を引き出せるようになっていた。

 しかし、このマーガレットが現れてからアルバートは彼女に耳を傾けるようになりミラジェーンの誘導がきかなくなっていたのだ。

今や何故かミラジェーンはこの令嬢を疎ましく思い殺害しようとした、とまで言われている。


「…もうお前の顔を見るのも我慢ならん!

こちらの令嬢殺害未遂の件でお前など…どうにだって出来るんだぞ!」


―ゾクゾク…。ミラジェーンはスカートの中で足が震えて来るのを感じた。アルバートのあの冷たい目が私を睨んでいる…、あぁ…、たまらないわ…。


「…申し訳ございませんが、気分がすぐれませんの…今日は下がらせて頂きます。」


「な、何を言っている。お前の処分はまだ決まっていないぞ!

お前など、牢屋に入れてやる。イヤ…国外追放が良い!」


アルバートはミラジェーンの青白くなっていく顔色を見てどんどんエスカレートしていく、横にいたマーガレット令嬢がそっと耳元で何かを告げているのが見える。


「フンッ…。まあ、マーガレット譲に感謝するんだな、お前は修道院で性根を叩き直せ、神に仕え自分の悪事を悔い改めると良い。」


 あっぱれ!マーガレット様。

心の広さを皆に知らしめるとは!!

アルバートを嗜める様も堂々としたものですわ、それにしても何たる茶番。

―んっ?

 修道院⁈ いま修道院と言いました? 私が修道院へ?

それはまずいわ…。修道院…神に仕える修道士の家、博愛、敬愛、愛、愛、愛―…!!! そんな所は地獄よーーーーー!!!

誰もののしってくれないじゃないの! マズイ、マズイ、マズイ…。


「…では、王太子殿下、決定事項がありましたらアントワース公爵家まで一報くださいまし。 …お待ちしておりますわ。」


 颯爽とお辞儀をして、踵を返し会場を後にしようとする。

後ろでアルバートが何やら叫んでいるが、もうミラジェーンは次の手を考えるのに忙しく聞こえていない。





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