番外編1 結婚式前夜〜王太子視点

「いよいよ、ユリアを僕のものだけにできる」


 結婚式を明日に迎え、僕は自室でぼんやりと考え事をしていた。机の上には結婚指輪のケースが置かれている。

 

 出会いは突然だった。


 うるさい取り巻きの女性たちに少しうんざりしながら歩いていたその時、いきなり僕に飛びかかってきた人がいた。


 何が起きたか分からない僕が、ふと目にすると、さっき自分が歩いていた場所に深々と矢が刺さっていた。


(命を助けてもらったのか……)


 そして、飛びついてきた人を見て、僕はそれこそ胸を貫かれたような衝撃を受けた。


(なんて美しい女性なんだ)


 今まで目にしたことのない人だった。ハチミツ色のつややかな金髪、エメラルドのような知性的な瞳、美しい顔立ちをした女性が、心配そうに僕を見つめていた。


 きっとその時、すでに僕は恋に落ちていたのだろう。継母に酷い目にあわされて、すっかり女性不信に陥っていた僕だったから、自分が恋に落ちるなんて考えても見なかった。


 そして彼女は、僕が名前を聞かないうちに、風のように僕の前から去っていってしまった。


 ◇


 それから、必死に彼女の情報を集めて、そして、なんとか協力してもらうことに成功した。品のない全身ピンクの衣装を着た、彼女の妹にも会って話もした。正直、ユリアとは似ても似つかない知性のかけらもない女性だったが、色々と有用な話は聞けた。


 彼女がどうやら未来の予知能力を持っているらしいということと、カール・シュタインという無能で、ただ、貴族の息子というだけの男と婚約していたということ。


 そして、彼女が婚約破棄したばかりという話を聞き、彼女が気の毒だと思った反面、もしかしたら僕にも可能性が残っているのではと思ってしまった。


 そして、少し強引だったけど、彼女に協力してもらうことに成功した。


 ◇


 彼女は想像をはるかに超えて有能だった。能力が発動すると彼女はテキパキとしかも適切に従者たちに指示をする。最初、彼らは彼女のことを半信半疑で見ていたが、すぐに目に見えて信頼するようになった。


 でも、ユリアがどんどん、彼らと仲良くなるのをみると、なんだか、心の奥底で少しモヤモヤするようになってしまった。ヴィクターなんかは特に馴れ馴れしい気がして、その時は自分が押さえきれないような気持ちになった。でも、そんなことを表に出すわけにはいかず、必死になって気持ちを押さえていた。


 そんな毎日が過ぎていって、どんどんと彼女とも仲良くなって、一見何事もないような生活が送れるようになっていた。彼女に頼り切って、すっかり油断していた。


 今でも後悔している。彼女が僕の身代わりになって、馬車に轢かれ意識不明になっていた時のことを。


 あの時、僕は自分を激しく責めた。


 意地を張っていたのだ。自分が王としてふさわしい人間であることに拘っていた。もしかしたら、彼女にいい格好をしたかったのもあるのかもしれない。


 あの晩、彼女が本当に目を覚まさなかったと思うとゾッとする。だから、彼女が目を覚ました時、想いが溢れ出して彼女を抱きしめてしまった。


 それからはもう僕は格好つけるのをやめにした。


 周りがどんな目で見ても構わない。僕は彼女のために何ができるかをずっと考えるようになった。色々とやりすぎてしまって彼女を戸惑わせてしまっていたけれど。


 ◇


 継母との全ての決着がついてから、僕は公務により一層力を入れるようになった。僕は彼女にふさわしい男になりたい。だから、仕事でもプライベートでもより一層頑張っている。そして、彼女に最高の未来をプレゼントしたい。


 彼女は未来を運命だと思っている。でも僕はそうじゃないと考えている。


 未来っていうのは、自分たちで作るものなんだ。だから、二人で一緒にこれから最高の未来を作っていきたい。


 僕は机の上に置いてある、結婚指輪のケースを開けた。指輪は永遠の輝きをたたえて僕たちを祝福しているように見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る