第13話 迫り来る馬車
レオンハルト王太子殿下と話し合ってからしばらくの間は能力が発動しないまま、比較的穏やかに日々が進んでいった。
王立学校にも殿下と一緒に通ってもいた。
今では一緒に歩いても、私に対して敵意むき出しにするような人はいない。裏では何を考えているがわからないけれど、少なくても、私に嫌がらせをするような人間はいなくなった。むしろ、近くに寄ってきて、いろいろと親しげに話しかけてくる人まで出てきた。
レオンハルト殿下ともだいぶ仲が良くなってきた。付き合ってみると、実際の彼は、意外に表情が豊かでユーモアがあることがわかった。学園にいる時のように、氷みたいな雰囲気とは大違いだった。
ただ、時折、寂しげな表情を見せることがある。すぐに笑顔に戻るけれど、どうしても気になってしまう。
やはり、継母である王妃ベルタのことが気になっているのだろうか。
おそらく、彼は母親として接していた幼い頃の思い出が忘れられないのかもしれない。
本当は彼女を徹底的に追求すべきだと思う。それができないのは、彼の優しさであり、弱さなのかもしれない。できるだけ穏やかに何事もなかったかのように彼は振る舞い、粛々と王位についた後、王妃をゆっくりと引退に追い込んでいくのだろう。誰もが傷つかないように。
彼自身は誰よりも傷ついているはずなのに、そんなそぶりを全く見せない。もしかしたら、彼は自分が暗殺されたとしても、何も言わずに死んでいこうと思っているのかもしれない。
私はそんな彼の危うさに、時折胸が締め付けられそうな気持ちになる。
どうか、何事もなく、この二ヶ月間が過ぎますように。私は祈るような思いで、彼と一緒に過ごしていた。
そんな静かで一見平和な日々がすぎ、私たちが油断しているところで事件は起きた。
◇
その日は予定より早く学校は終わり、いつも通りにレオンハルト殿下と連れ立って門の外に向かって歩いていた。従者二人は準備のため、前もって送迎の馬車の方に行っていた。
私はクラスメートに声をかけられて、つい、長話してしまい、少し飽きてきたレオンハルト王太子殿下が門の外へ出ていった時、私の頭の中で、あのイメージが浮かんできた。
《王太子が、暴走する馬車にひかれている。嫌な音が聞こえて、倒れた彼は身動きひとつしていない》
はっと思って彼を見ると、ちょうど外に出て、自分の馬車へ向かって歩いていた。
私は必死になり、声をあげて彼に向かって走った。前を見ると猛烈な勢いで、御者のいない馬車が暴走してきている。
「危ない」
彼が少しこちらに戻りかけたところで、私は彼に追いつき、突き飛ばした。
次の瞬間、目の前に馬車がいた。
一瞬の間だったはずなのに、なぜだかスローモーションのようだった。馬の気が狂ったような目つきや、突き倒された殿下がこちらに向かって何かを叫んでいるところがはっきりと見える。
その後、私はどこかへ飛ばされ、気を失ってしまった。
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