第7話 一緒に住もう
「い、いい、言っている意味がわからないんですけど」
さすがの私も動揺が隠せず変なしゃべり方になってしまった。王立学校どころか、国民的なアイドルのような存在。レオンハルト王太子殿下と三ヶ月も一緒に寝泊まりするだなんて…… しかし、当の殿下は涼しい顔をしていた。
「ああ、ごめん、少し説明不足だったね」
彼はゆっくり話し始めた。
「僕は何者かに命を狙われているんだ。しかも、今まで何回もね」
……あれが初めてではなかったのだ。
王太子殿下が狙われているなんてことは国にとっての一大事であるはずだった。しかも、何度も狙われているなんて、そんなことがあっていいのだろうか。王宮の人たちは、いったい今まで何をしていたんだろう。
それにしても何かおかしい。この国は比較的平和だったし、隣国とも関係は良好だったはず。もちろん、政治の内部については何も知らないけれど。もしかしたら、裏で何かがあるのかもしれない。
「まだ、犯人は見つかっていないんですか?」
「ああ、おそらく捕まえるのは難しいだろうね」
彼は少し暗い顔をした。
「もしかしたら、何か心当たりがあるのではないですか?」
私はもしや、と思って聞いてみた。
「隣国とは争う理由が今のところないし、平和が長く続いているので、不満分子はいたとしても、国民感情は悪化していないので、そこまで過激化してはいない」
ではもう一つしかない。王太子には弟の第二王子オスカー・ネッツァーがいる。つまり……
「敵は内部のもの……ということですね」
そう言われたレオンハルト王太子の顔は、青ざめて少しこわばっていた。何か知っているんだ。直感的に私は理解した。彼はもしかしたら、そのことを知っていて苦悩しているのかもしれない。
「多分、今は知らない方がいいと思う。君に危険が及ぶかもしれない。でも、あと三ヶ月なんだ。三ヶ月乗り切れば、なんとかできそうなんだ。だから、君に協力してもらいたい」
「三ヶ月ってどういうことですか?」
「これは極秘の情報なんだけど、父の寿命がつきそうなんだ。父はいま、王宮でつきっきりの看病を受けている。どんな治療も効かない状態だ。だから、父にもしものことがある前に、議会で王位継承権について正式な手続きをとっているところなんだ。承認されれば、正式に王位継承が決まる。それが三ヶ月後なんだ」
そんな極秘情報を打ち明けられても、こっちが困る。
「王位についたら大丈夫なんですか?」
「王になったら、直接自分が指揮をとって内部のことを調べることができる。心当たりもあるしね。そうなれば僕への危険も排除できると思うんだ。だから、それまでの間、僕の近くにいて、何か危険があったら知らせて欲しい。君だけが頼りなんだ。頼む」
レオンハルト王太子とともに一日中、しかも三ヶ月も一緒に過ごすだなんて、おそらく、国中の女性が、求めても得られないような幸運であることは間違いなかった。それが、単に自分の特殊能力のためであっても。
いくら幸運と言っても、引き受けたら、事件に巻き込まれて命を失ってしまう可能性はある。
でもそんなことより今は、単純に誰かから必要とされているということが何よりも嬉しかった。しかもレオンハルト王太子殿下直々に頼まれているのだ。
だから、私は覚悟を決めた。
私はうなずくと、彼が差し出す手を握り返し、提案に同意することにした。
「よかった。明日からすぐに迎えに行くよ」
その時、ラインハルト王太子の笑顔を初めてみた。学園内で彼はほとんど表情を変えることはなかった。少なくても笑顔を見た人は一人もいない。私はその魅力的な笑顔を見てしまい、すごく気持ちがぐらつくのを感じた。
彼はこの三ヶ月、どのような危険な目にあうか分からない。彼をぶじ王位に就かせることが、私に果たしてできるのだろうか。失敗が許されない、とてもとても重い仕事だった。
いや、違う。私の恐れているのは単なる責任の重さではない。もっと違うことだ。
私は自分の命が危険にさらされることはそれほど恐れていなかった。
今、1番私が恐れているのは、私が彼に惹かれ始めていることだった。
もしかしたら、避けられない残酷な未来を私は見てしまうのかもしれない。その時、彼のことを本当に好きになってしまっていたら、母を失った時以上に深く深く傷ついてしまうに違いない。
(何事もなく時間が過ぎ去りますように)
この三ヶ月という時間が長いのか短いのか、今の私には全くわからなかった。
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